ブログ:大学の授業はこんな感じ
今、大学の授業で
「コミュニケーション医学と認知バイアス」
についての講義をしているところです。
授業終了後に書いてもらうレボートを見ると
とても反応がいいので、
ちょっと「木に登る豚」になっています。
日常ではもちろんのこと、
医療現場でも認知バイアスは
避けて通れません。
いかに医療や日常において
認知バイアスの影響を受けているのか、
それを知った上で
どのようにそれを利用するのかを
学生には考えてもらいたいと思って
話をしています。
ここではどんな話をしたかについて
簡単にお話をしたいと思います。
まず導入として、
認知バイアスとはどんなものかを
体験的に知ってもらうために
以下のような二択のクイズを出しました。
世界の報道自由度ランキング(2024年版)で
以下のうち、どちらの国の方が
報道の自由度が低いでしょうか、という問題です。
①台湾 ②日本
この二つの国は、
180ヶ国中、24位と66位の国です。
ちなみに北朝鮮は179位です。
皆さんどちらだと思いますか。
答えを知っている人は少ないので
直感で答えるしかありません。
正解は日本です。
要するに日本は台湾よりも
企業の利益や政治的圧力により
自由に報道ができず、
規制される度合いが大きいということです。
台湾は中国とつながっているので
規制が強いのではと思ったり、
ジャニー喜多川問題の教訓もあり、
日本の報道の自由は
かなり制限されているだろうなと
考えたりします。
このように人は自分の経験や印象をもとに
直感的に判断することがしばしばありますが
これが認知バイアスの働きです。
認知バイアスは必ずしも悪いものではなく、
即座に判断する状況においては
必要で有益な働きです。
ただ、客観的でも論理的でもないので
ときに間違った判断をしてしまうため、
その点は十分に理解しておきましょう、
ということです。
認知バイアスには
たくさんの種類がありますが、
今回の授業ではそのうちの
最も代表的なものをいくつか紹介しました。
その最たるものがヒューリスティックです。
ヒューリスティックとは
ひらめきや思いつきで物事を判断する
思考のクセのことです。
例えば、交通事故で亡くなる人は
転倒して亡くなる人の数よりも
多いと感じる人が多いかと思います。
これが利用可能性ヒューリスティックと
呼ばれる認知バイアスです。
これは思い出しやすい事柄を基準にして
物事を判断してしまう思考のクセです。
交通事故死と転倒死とでは
断然、前者の方が思い出しやすいでしょう。
交通事故に関しては、
毎日のようにテレビやニュースで見ますが、
一方で転倒して打ち所が悪く、
そのまま亡くなったという人のニュースなど
見たことがありません。
ですから、当然のごとく
交通事故死の方が思い出しやすく、
それを基準に物事を考えるため
交通事故死の方が多いと思ってしまうのです。
でも実際はその逆です。
例えば令和4年の統計を見てみると
交通事故死は2,610人であるのに対して
転倒による死者は9,687人です。
このように思い出しやすいものを基準にして
物事を判断する認知バイアスが
利用可能性ヒューリスティックであり、
ときに判断ミスを生むことになります。
ヒューリスティックには他にもあり、
その一つが代表性ヒューリスティックです。
これをクイズ形式で出題した
「末期がんの余命問題」が
学生に最も受けがよかったです。
それはこんな問題です。
Aさんは90歳で末期がんです。
すでに昏睡状態であり、
主治医はあと数日の命でしょうと
家族に説明をしました。
さて、Aさんは次のうち、
どちらの可能性が高いでしょうか?
①1週間以内に亡くなる
②1ヶ月以内に亡くなる
皆さんも3秒立ち止まって
どちらかを決めてもらってもいいですか。
学生に答えてもらったところ、
①が85%、②が15%でした。
(今はこんなデータがその場で取れます)
圧倒的に1週間以内に亡くなるという答えが
多かったことがわかります。
これが代表性ヒューリスティックと
言われるものです。
人は典型的と思える事柄に引っ張られ、
それを基準に物事を判断するため、
客観的な判断ができなくなってしまうという
認知バイアスです。
答えは当然②の1ヶ月以内です。
なぜならば、1週間以内は
1ヶ月以内に含まれるため、
こちらの方が可能性が高くなるからです。
あと数日の命と言われれば
典型的な答えは①の1週間以内になります。
実際、ほとんどの人は
1週間以内で亡くなると思います。
しかし例外的にそこから
少し回復する人や昏睡状態でも
1週間以上生き続ける人もいます。
いずれにせよ、
可能性が高い方となれば、
②の1ヶ月以内になります。
こうやって人は判断ミスを
簡単にしてしまうものなのです。
他にも感情ヒューリスティックや
現状維持バイアス、確証バイアスなどの話を
クイズ形式の問題を取り入れながら
楽しく授業を進めました。
こんなふうにして
私も大学の授業を結構楽しんでいます。