ブログ:「病は気から」は誤解されている

4月から25年ぶりに
大学で授業をすることになりました。

心理学部の講座を
いくつか受け持っていますが
前期は主に心身医学と緩和医療の
話をします。

心身医学は大学院生が対象であり、
緩和医療は大学3年、4年生が対象です。

どちらも共通する部分があり、
それが「心の治癒力」です。

初めての授業では自己紹介を兼ねて
私が医者になった経緯や
なぜ心療内科医や緩和ケア医になったのか、
どんなことを考えながら
日々治療に取り組んでいるのかなどについて
話をしました。

終了後、授業の感想や質問を
簡単なレポートとして出してもらいました。

心理学部の学生なので
今まで医者の話を聴く機会はほとんどなく
そのため私の話をとても興味を持って
聴いていたという感想が多く、
ちょっと嬉しかったです。

一方で少々気になった感想もありました。

それは心の状態が変化することで
症状が改善するという話をしたところ、
「病は気から」だと思ったという感想です。

確かに心の状態や思いが変化することで
症状がなくなったり、
がんの進行が止まったりする
という話はしました。

その意味では、
「病は気から」というのは
正しいと言えます。

ところがこれを、
気の持ちよう、心の持ちようで
病気は改善すると理解したならば、
これははっきり言って違います。

なぜならば、この理解だと
あたかも自分の心の状態を
自分でコントロールできるかのように
錯覚しているからです。

もう少しわかりやすく言うと、
ここで言うところの心の状態とは
前向きな気持ちとか
大丈夫だという自信など
自分の「意思の力」のことであり、
そのような思いを持つことができれば
ちょっとした病気や症状なら
よくなるという意味です。

ところが病気のときに、
そんな思いが持てる人は稀です。

よほどセルフコントロールが
できる人でない限り、
思いの力で心の状態に
変化をもたらすことなどできません。

にもかかわらず、
病気や症状を気にしている人に対して
「病は気からって言うじゃない、
クヨクヨせず大丈夫と思えば
病気なんて治るんだから」などと
無責任なことを言うのです。

これは明らかに
「病は気から」という意味を
間違って理解しています。

では「病は気から」の本当の意味は
どういうことなのでしょうか。

ここで言うところの気とか心というのは、
無意識レベルの話なのです。

多くの人は知らず知らずのうちに
あれこれ考えたり心配したりして
不安になったり悩んだりします。

中には自分はダメだとか、
自分にはどうせできっこない、
みんなに嫌われているといった
ネガティブな思いを持っている人もいます。

これらの思いや感情は
すべて無意識レベルで生じるものです。

反対に、なんか知らないけど
気分がいいとか、うれしいといった
ポジティブな心の状態もあります。

これは何かのきっかけで
「心の治癒力」が活性化された結果であり、
これもまた無意識レベルで生じるものです。

病気で苦しんでいるときなどは
多くの人はネガティブな思いで
無意識が占められています。

そのため、
ポジティブな思いを持とうと思っても
そんな思いにはならないのです。

ものごとを判断したり行動したりするのは
ほとんどの場合、
意思や意識ではなく無意識の方です。

つまり無意識の力の方が意識的な思いよりも
圧倒的に影響力が強いので
無意識レベルで思いが変わらない限り、
ポジティブな思いなどにはならないのです。

では、どうしたら
無意識レベルでポジティブな思いを
持ってもらうことができるように
なるのでしょうか。

その際に重要になってくるのが
「つながり」「きっかけ」「気づき」です。

例えば、体調の悪いときであっても
彼氏や彼女、仲良しの友達などが
きてくれたならば、
それだけでホッとします。

これなどは「つながり」によって
無意識レベルでポジティブな思いが
生じるという最も身近な例です。

また、親友や尊敬する先輩の
ちょっとした一言などが「きっかけ」となり
少し気持ちが前向きになることもあります。

これらはすべて
意識的に前向きな気持ちになろうと思って
なったわけではなく、
「つながり」や「きっかけ」により
自ずと前向きな気持ちになることが
できたということです。

たとえその気持ちが持続しなくても、
一時的であれ無意識レベルで
ポジティブな心の状態が
生じたのは事実です。

それがまさに、
「心の治癒力」が発揮された結果なのです。

そんな小さなことの積み重ねであっても
無意識レベルでのポジティブな変化が
少しずつ増えていけば、
それが自ずと体の治癒力にも影響を及ぼし、
その結果、症状の改善につながることは
十分にあるのです。

ブログ:「病は気から」は誤解されている” に対して1件のコメントがあります。

  1. 遠藤玲子 より:

    黒丸先生の授業を受けることができる学生さんたちは本当に幸せですね!意識も無意識も、思考も行動も変化して、きっと先生のご意志を受け継がれる方も生まれると思います!

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