ブログ:他人をその気にさせるテクニック
私たちは、
「あなたのこと、Aさんが褒めていたいよ」
と言われると、なんか嬉しくなるものです。
これは「ウインザー効果」と言われるもので、
当事者の発信よりも、
利害関係のない第三者から発信された情報の方が
より強く信じられる傾向のことです。
これは人間関係をよくするのにも
利用できます。
『友達のBさんが、
「あなたの旦那さんはいい人で羨ましい」って
言ってたよ』
『先生が
「○○君は最近勉強、頑張っているね」って
褒めていたよ』
こんなことを言われたら
嬉しくなるのは当然ですし、
そのことを伝えてくれた本人にも
好印象を持ちます。
私は心療内科時代、
ウインザー効果を応用したものを
患者さんの治療にも取り入れていました。
例えばうつや不安障害の患者さんに対して、
「先日、あなたと全く同じ症状の人が
いたんですけど、
その人はこんなことをしたら、
すごくよくなったって言ってましたよ」
と言うのです。
私が直接、
こんな方法がありますよと言うよりも
第三者の話を持ってくる方が
ずっと実行してくれる確率が高くなるので
私はこの方法を結構使っていました。
もちろんウインザー効果は
商売にも使えます。
商品を売る際も、
売り手側が
「これはよい商品です!」と言っても
宣伝文句にしか聞こえません。
しかし、
「お客様の声」や「レビュー」といった
第三者の言葉や評価は
信用される傾向にあります。
ただし、サクラを使ったり、
よい意見だけを掲載することで、
ウインザー効果を悪用している場合も
見受けられます。
以前、河野太郎元デジタル相が
人気ユーチューバーらに
合計3,200万円を支払い、
SNSでワクチン接種の有効性を
語ってもらっていました。
これはウインザー効果の悪用例であり、
ステルスマーケティングと
言われるものです。
要するに、
インフルエンサーに宣伝してもらい
裏でお金を支払うという手法です。
このように良くも悪くも
口コミなどの第三者からの情報は
直接伝えるよりも影響力が大きいのです。
また、日常会話で
「そうなると思ってた」という言葉を
ときどき聞きます。
「いつかトラブルを起こすと思っていた」
「大谷はホームランを打つと思ってた」
これは「後知恵バイアス」と言われるもので
何かが起きた後や結果を知ってから
事前にそれを予見していたかのように思う
心のクセです。
あとから知った結果をもとに、
結果を知る以前から自分は知っていたと、
無意識に書き換えるわけです。
例えば、
大谷がホームランを打てば、
「打つと思った」と言い、
三振したら
「そんな気がしたんだよな」と言うのは、
すべて後知恵バイアスです。
もちろん本人は
ウソを言っているつもりはありません。
実際には一瞬かもしれませんが、
ホームランを打つことをイメージしたり、
三振をすると思ったりしていると思います。
それが結果を見たあとでひとつの思いに
集約されてしまうため、
自分の思っていたことが
正しかったと思ってしまうのです。
医療の世界でもよく見られます。
レントゲンやCTを撮っていたのに、
がんを見逃したと言って
訴訟になる場合があります。
1年前の映像を見ると、
確かにがんがあるのですが、
しかしそのときには
がんだと判断できるような
大きさや形ではない場合もしばしばです。
これはあくまでも、
がんだと分かってから
もう一度見直すとがんに見えるという
後知恵バイアスの例です。
また自殺なども、
その兆候が明らかにあったのに
なぜそれに気づけなかったのかと
言われてしまいがちです。
これも後知恵バイアスであり、
起こった後からであれば
何とでも言えます。
そもそも自殺の兆候が
明らかにあったとしても、
そのうち本当に自殺をしてしまう人は
1%くらいではないでしょうか。
実際には、
自殺をしようと思っただけだったり、
自殺未遂に終わったりする場合が
ほとんどです。
一方で、そこまで追い詰められていなくても、
ひょんなきっかけで
自殺に踏み切ってしまう人もいます。
このように、
実際に自殺をするか否かなどは
分からないとしか言いようがないのです。
しかし、
自殺したという結果を知った後であれば、
いくらでもその原因や理由、
きっかけについては語ることはできます。
さらにそれを語るような人は
専門家と言われる人が多く、
私はそのような発言を聞くたびに
この人も後知恵バイアスに
気づいていないんだろうなと
哀れに思ってしまうのです。