ブログ:ポジティブ心理学は間違っている!?

今回もバチャ・メスキータ著、高橋洋訳、
「文化はいかに情動をつくるのか」
(紀伊國屋書店)からのお話です。

愛と幸福に満ちた生活が
嫌だと思う人はまずいないでしょう。

愛や幸福はどの文化においても
「正しい」と見なされていると
私たちは思い込んでいます。

しかし実際には、
どうもそう単純な話ではないようなのです。

ポジティブ心理学は愛や幸福を
「正しい」情動だと考え、
それらを重要視しています。

しかし、文化圏によっては
そうではないところもあるため、
ポジティブ心理学の考え方は
必ずしも普遍性のある正しい考え方だとは
言えないのです。

そのあたりをもう少し詳しく
見ていくことにしましょう。

愛の定義となると難しいのですが、
欧米人が一般的に思っている愛は、
特定の他者と親密な関係を結んだり、
結ぼうとしたりするもので、
多くは自分の欲しているものを
満たしてくれたりしてくれる人に対して
抱く感情です。

特に最愛の人となれば
お互いにとって特別な存在であり、
特別な時間を共有したい、
その人のそばにいたいという感情を抱くため
愛は重要な人間関係の基礎を築き、
その核心をなすものなのです。

その意味では愛は「正しい」情動だと
考えられています。

このように個人を対象としている愛は
欧米の多くの文化に浸透している
個人主義の風潮に適合しています。

しかしその一方で、
個人の目標を優先するよりも
人間関係や集団の目標を優先する文化も
当然あります。

例えば、アフガニスタンやパキスタン、
イラン、イラク、中国の農村では
結婚相手は家族や親が選ぶのが
最善だと考えられています。

この制度のもとでの結婚は
しばしば悲しみに見舞われます。

実際、1980年代の調査では、
多くの中国人は愛を
悲しみ、苦痛、犠牲、孤独といった
ネガティブな情動としてとらえていました。

孝行を重んじる国では、
愛は、子どもが親に対して持つべき
敬意や恭順の念を破壊するものと
考えられていたのです。

個人を大切にする文化圏と
関係性を大切にする文化圏とでは
「愛」のたどる道筋は異なるのです。

つまり、後者の愛には
他者の苦痛に気づき、
彼らの生活苦を悲しみ、
彼らを手助けしようとする努力が含まれ、
特別な誰かと関係を持つことの喜びが
重要だとは見なされないのです。

また友情に関する情動も
国や文化によって異なります。

例えばガーナ人の多くは、
友情は物品や実用的な援助を
相手に与えることを意味しています。

資源が乏しい地域では、
その種の期待が義務として
扱われているのかもしれません。

さらに言えば、
信用ならない友人につけ込まれる可能性は
常にあるため、
ガーナ人は友人をあまり多く作ろうとは
しないのです。

つまりガーナ人にとっての友情は、
相互承認や称賛よりも
親密な関係によって課せられる負担を
軽減することに関心の重点が
置かれているのです。

幸福においても
文化圏によりそのとらえ方は異なります。

アメリカ人の場合、
幸福な人は健康で成功しており、
人から好かれ承認されていると考えます。

さらに、外交的で活動的、陽気、
友好的で他人のためになることを
するような人が幸福な人だと見なされます。

ところが、多くの地域で幸福は、
望ましい情動ではないどころか、
「間違った」情動だと
思われているところすらあります。

例えば日本人にとっての幸福は、
自己中心的になりがちで
周りに対する配慮が
足りなくなる恐れがある、
他者の羨望や嫉妬を招くリスクがある、
といった側面もあると感じています。

つまり日本人の場合、
アメリカ人とは対称的に、
幸福は人間関係に
悪影響をもたらす可能性をはらんでおり、
必ずしも望ましいものだとは限らないと
捉えているところがあるのです。

他の研究でも、
日本人やアジア系アメリカ人の大学生は
白人系アメリカ人の大学生よりも
一貫して幸福度が低いことが
報告されています。

一方、東アジアの多くの文化では
穏やかな人間関係を支える情動の価値が
重んじられます。

香港で暮らす中国人や中国系アメリカ人は、
刺激的な幸福よりも、
穏やかさを保ち落ち着いてリラックスし、
静かに過ごすことが理想だと
研究では報告されています。

こうして見てみると、
同じ「愛」や「友情」、「幸福」と
表現される情動でも、
個人を中心に考えるのか
つながりや人間関係を中心に考えるのか、
さらには陽気さをよしとするのか
穏やかさをよしとするのかは、
文化圏によって異なり、
それぞれの情動のニュアンスにも
大きな違いが生じることがよくわかります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.