ブログ:心の治癒力と認知バイアス

(前回から続く)
コミュニケーション医学の話をする際、
今までどうしても
「心の治癒力」と「認知バイアス」が
つながりませんでした。

どうしたら統一感のある話ができるのか
いつも悩んでいたのですが、
今回ようやく、この両者が
「つながった感」がありました。

どういうことかを簡単に説明します。

心の治癒力が活性化された場合、
そこには安心感や期待感といった
ポジティブな感覚が伴います。

心の治癒力が活性化される
「きっかけ」は様々であり、
薬や点滴はもちろんのこと、
治療者の態度や説明、状況など
多種多様です。

一方の認知バイアス(思考のクセ)は、
無意識レベルで行なわれ、
意思決定に関与します。

直感と言ってもよく、
これにより判断や行動が異なります。

例えば、治療を受けるか受けないか、
薬を飲むか鍼灸を受けるか等々の
意思決定をする場合であり、
ここには必ず認知バイアスが関与します。

認知バイアスによる判断は、
必ずしも正しいとは限りませんし、
そもそも人間が
常に正しい判断をするというのは
現実的には不可能です。

そうであれば、
現実は試行錯誤の連続であり、
最終的に自分にとって正しい選択に
たどり着けばそれでよいということです。

正しいか否かはわからなくても、
どこかで安心感や期待感、納得感といった
心の治癒力を感じることができたならば、
その選択は「とりあえず」正しいと言えます。

その選択は手術を受けるでも、
整体を受けるでも何でもかまいませんが、
そこには、たとえ僅かであっても
ポジティブな感覚が生じたのであれば
それは今の自分にとって正しい選択だったと
判断してもかまわないということです。

逆に言うと、
医者に説得されて抗がん剤治療を
受けると意思決定したとしても、
そこにポジティブな感覚よりも
ネガティブな感覚の方が大きい場合、
再度考え直すことをする方が
よいのではないかということです。

つまり、何かを意思決定する場合、
心の治癒力が活性化されるか否かで
自分の判断が正しいか否かを
決めたらよいということです。

また、一度決めたものを
変更してもかまいません。

新たな意思決定の方が
心の治癒力が高まると感じたのであれば
そうすればよいのです。

医療者の場合も同様ですが
立場は逆になります。

つまり、患者さんの心の治癒力を
活性化するためにはどのような
かかわりをするかという意思決定が
必要になります。

ただし、少し難しい問題も出てきます。
例えば、医者は手術をした方がよいと
思っているのに、
患者さんが手術をしたくないと
思っている場合などです。

手術を無理強いすると、
患者さんの心の治癒力は低下し、
場合によっては逃げられる可能性もあります。

そうかと言って患者さんの意向に沿えば
命の危険にさらすことにも
なりかねません。

このような場合は、
思い込みを変えるような
かかわりのテクニックが必要になります。

詳細はここでは述べませんが、
最終的に患者さんが
手術を受けた方がいいなと思うような、
そんな状況に持っていくということです。

こんな感じで、
私の中では心の治癒力と認知バイアスは
ある程度折り合いがつきました。

しかし、
ここに新たな問題が出てきたのです。

それは、コミュニケーション医学には
限界があるということです。

以前、このブログでも書きましたが、
医学論文の信憑性の問題です。

医学におけるあらゆる判断は、
研究論文を参考にして
決められるのが一般的です。

抗がん剤の効果を判定するのも
厚労省が新薬を認可するのも、
学会が標準治療の
ガイドラインを作成するのも、
すべて信頼性のある論文が
基になっています。

ところが、
今までは信頼性があると思われていた論文が
実は信頼性に欠ける可能性があるということが
わかったのです。

実は、このことは
以前から指摘されていましたし、
多くの研究者も自覚していると思います。

ただ、実際に研究論文が
信頼するに値しないということが
はっきりすると、
医療者は何を根拠に
医学的判断をしていったらよいのかが
わからなくなってしまいます。

論文の信憑性が
疑わしいということになると、
医療者は最初の段階で
意思決定を間違えているという可能性も
でてくるわけです。

これがまさに
コミュニケーション医学の限界だと
思った点です。

根拠としている情報が
実は間違っているのであれば、
患者さんに有効だと思ってしていることが
逆に有害だったということにも
なりかねません。

さらには今の大きな社会問題にもなっている
「過剰医療」の問題とも絡んできます。

真実か否かがわらない論文により
様々な治療法がすすめられ、
医者も当たり前に受け入れています。

その結果、不要もしくは有害な治療が
頻繁に行なわれることになるのです。

これは医療的問題にとどまらず、
社会的、国際的、政治的な問題にも発展する
大問題なのです。

この問題については、
今後少しずつ
思索を深めていきたいと思います。

なお、今回の講演は後日視聴で
聴くことができます(2時間半!)。
興味のある方はお申し込みください。
コミュニケーション医学の基本を学ぶ

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