ブログ:悪事の心理学②

今回も前回紹介した
キャサリン・A・サンダーソン著、
「悪事の心理学」(ディスカバー21)をもとに
話を進めさせてもらいます。

私たちは、多くの人がいる中で
悪事や緊急事態を目撃しても、
何もせずに傍観しているだけということが
しばしばあります。

この事実が明らかになったのは、
1964年にアメリカのニューヨーク州で
若い女性がアパートの外で殺害された事件が
きっかけになりました。

その夜、38人の住民が
事件を見たり悲鳴を聞いたり
していたにもかかわらず、
彼女を助けに行ったり、
警察に通報した人が誰もいなかったのです。

この事件をきっかけに、
「傍観者効果」の研究が盛んになりました。

傍観者効果とは、
まさに読んで字のごとくであり、
ある事件に直面した際、
自分以外に 多くの人がいると
自分はただの傍観者となってしまい、
率先して行動を起こさなくなるという
心理のことです。

この場合、
他の誰かが何かをしてくれるだろうから、
自分は何もしなくてもよいと
思い込んでしまう「責任の分散」が
生じます。

そのため、
集団的状況で人が救助を行なう可能性は
大きく低下することになります。

この現象は「社会的手抜き」にも
関係しています。

「社会的手抜き」とは、
集団的状況にいる場合、
自分が行動しなくても、
それがバレることはないと思い、
自分の労力を減らしてしまうという
現象のことです。

例えば、
綱引きで多少力を抜いてもいいやと思ったり
二人で不具合をチェックする場合、
一人のときよりも気を抜いてしまう、
といったことです。

医療現場では薬品等のダブルチェックが
一般的に行なわれていますが、
その際にも社会的手抜きが生じるため
その有効性が疑問視されています。

これは、他の人がいると思うと、
きちっとしなくてはという切迫感が
減ることが要因として考えられています。

また「多元的無知」という現象も
よく知られています。

緊急と思われる状況に直面した場合、
緊急性があるのか否かが曖昧な場合、
私たちは他人の行動を見て
確かめようとします。

その際、周囲の人が無反応だったりすると
これは緊急事態ではないと思ってしまい、
その人も何もしなくなってしまうのです。

これが「多元的無知」と呼ばれる心理です。

例えばこんな研究があります。

実験参加者の学生に
簡単なアンケートに答えてもらいますが、
ある学生は一人きりの部屋で、
また別の学生は他の二人と一緒の部屋で
アンケートに答えます。

ただし他の二人は実験協力者であり、
緊急事態があっても一切反応しないようにと
事前に言われていました。

学生がアンケートに答え始めてから数分後に
その部屋に煙が充満し始めます。

一人でいた学生の75%は、
煙の発生源を調べるために立ち上がり、
その後、実験者に報告をしに
部屋を出ました。

一方、他の二人(実験協力者)といた学生は
実験打ち切り時間の6分間以内に
立ち上がった学生は10%しかおらず、
終了する頃には煙は非常に濃くなり
煙を顔から振り払わないと
アンケートが読めないほどでした。

そんな状況であったにもかかわらず、
煙が出ているという状況を無視して
アンケートに答え続けたのです。

この実験では、
他の二人が無反応だったため
煙は深刻なものではないと
判断されていたのです。

このように一人でいるときは
人は状況を緊急事態だと認識し、
適切な行動が取れます。

しかし無反応の人たちの集団の中にいると、
ほとんどの人には「多元的無知」が働き、
何も行動を起こさなくなってしまうのです。

また人は、
誰かを助けるべきか否かという場面に
遭遇した場合、行動を取る前に
無意識レベルで費用対効果を分析します。

つまり利益がコストを上回れば
人助けの行動を取りますし、
コストが利益を上回れば
人助けをせずにスルーします。

例えば、道端で女性が男性に
嫌がらせをされている場面に
出くわしたとしましょう。

その女性を助けてあげれば、
女性は喜ぶし自分も善行ができたという
満足感もあるという利益が生まれます。

一方で、逆に男性に殴られるという
身体的リスクや、
過剰反応だと批判される
社会的リスクもあり、
これがコストになります。

この利益とコストを天秤にかけ、
利益が上回れば
女性を助けるという行動に出ますし、
コストが上回れば
何もせずに通り過ぎることになります。

このように私たちは
緊急事態に直面したときに、
「傍観者効果」や「責任の分散」、
「社会的手抜き」、「多元的無知」が
働きやすくなります。

その際、
援助にかかる利益とコストを天秤にかけ、
行動するかスルーするかを
無意識レベルで費用対効果を分析して
判断しているのです。

さあ、みなさんはどうでしょうか?

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