ブログ:悪事の心理学①

多くの人は善良であり、
積極的に悪事を働くような人は
少ないと思います。

しかし、その善良な人たちの多くは
悪事に直面すると沈黙してしまい、
間接的に悪事に荷担してしまうことは
しばしば見受けられます。

例えば、
通りで暴力行為を目撃したとき
あなたは止めに入ったり、
警察に通報したりしますか?

職場で上司が明らかな不正を知った場合、
忠告したり告発したりしますか?

実は多くの人はこのような悪事や不正を
見て見ぬふりをします。

そのことについて詳しく書かいている本が
キャサリン・A・サンダーソン著、
「悪事の心理学」(ディスカバー21)です。

このように善良な人が
知らず知らずのうちに
悪事を働いてしまうのには
いくつか要因がありますが、
そのひとつが「集団」です。

人は集団の中にいるとき、
自分一人では
決してやらないようなことを
してしまう傾向があります。

例えば私が通っていた中学や高校でも
いじめは普通にあり、
ある特定の人が
いつもいじめられていました。

多くの人はそれを面白がって
見ているだけでした。

このような光景を思い出すと、
確かに普通の人が、
間接的ではあったとしても
悪事に加担しているという現実があることは
理解できます。

また集団になると
自分についてあまり考えなくなる人が
一定数存在することが知られており、
この人たちは他者を傷つける行動を
取りやすいと言われています。

特に暴力行動においては、
覆面やフード、
顔を隠せる服を着ている人ほど
破壊行為により関与し、
多くの人に危害を加えるようになります。

これは「没個性化」と呼ばれるもので、
集団になることで個人としての自覚が
喪失することを意味します。

SNSでの匿名投稿には、
平気で人を傷つけることを書く人がいますが
これなども「没個性化」による行動だと
説明できます。

他にも、
悪事に手を染めやすくなる要因として
「権威ある人物からの命令」があります。

これは有名な「ミルグラム」の研究で
明らかになったことです。

詳細は省略しますが、
これは権威ある人から命令されたとき
人は他人に苦痛を与えるのかということを
明らかにしようとした研究です。

この研究では、
生徒役(さくら)は問題を間違える度に
教師役(披験者)から罰として
電気ショックを与えられます。

電気ショックは15ボルトから始まり
その後少しずつ強くなり、
最後は450ボルトまで上げることができます。

450ボルトの電圧のスイッチには
「危険を大きく超える激しい衝撃」といった
表記がされていますが、
実際には電流は流しておらず、
さくらの生徒役が
苦しむ演技をするだけです。

この研究では、指導者から
「もっと電気ショックを与えて下さい」と
指示された際、披験者の教師役は
最高レベルの450ボルトまで
電圧を上げ続けるのかを
明らかにしようとしたものです。

結果は、大方の予想に反し、
何の罪もない生徒役に対して
65%の人が最高レベルの450ボルトまで
電気ショックを与え続けたのでした。

この研究から、
たとえ罪のない人物に対してでも
人は権威者の命令であれば、
危害を加える可能性があることが
わかりました。

なぜ人はこのようなことを
してしまうのでしょうか。

その要因のひとつとして、
「すべての責任は私が負います」という
権威者の姿勢があったからだと
言われています。

その言葉を聞いて、
命令に従った参加者は、
悪事に荷担したとしても、
自分の責任ではないという気持ちが生まれ、
その結果、電気ショックを
与え続けることができたのでした。

一方で、自分の行動には責任があると
感じていた参加者は、
命令に抵抗して電気ショックを与えることを
やめる可能性が高かったのです。

この研究から、
人は上司から言われると、
悪いとわかっていながらも
不正や悪事を働いてしまう心理が
理解できるのではないでしょうか。

また間違っているとわかっていながらも
つい従ってしまうのは、
状況が少しずつエスカレートして
いくこともひとつの要因です。

電気ショックを450ボルトまで上げられたのは
少しずつ電圧を高くしていったことも
関係していると考えられます。

これは、嘘をつくと
最初はネガティブな感情を伴いますが、
嘘をつき続けるうちにその感覚が鈍り、
段々と大きな嘘がつけるように
なってしまうのと同じです。

こうして見ると、
人はなぜ悪事を働くのかという問題は
単に善人なのか悪人なのかという
単純な問題ではなく、
状況的な要因により
大きく左右されることがよくわかります。

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