ブログ:真実は言葉では表現できない②

前回は、言葉では表現できない知識である
「暗黙知」について
話をさせていただきました。

暗黙知の存在は、
人の顔の違いは感覚的にすぐにわかっても、
それを言葉で説明しようとすると、
うまく表現できないことからもわかります。

暗黙知は、
カウンセリングをする際にも
問題になってきます。

あるクライエントが
悩みや問題を語ったとしましょう。

旦那がいかに身勝手な人なのか、
上司がどれほどいけていないのか等々、
いろいろと話をしてくれます。

当然、セラピストは受容と共感をもって
話を聴くわけですが、
ここで問題になってくるのが、
クライエントが体験したことを
どんなに詳しく説明されても、
セラピストには伝わらないという事実です。

もちろん、
全く伝わらないわけではありません。

上司に「お前は本当に無能な人間だな」と
侮辱されたときの悲しみや悔しさを
クライエントは涙を浮かべながら
話をするでしょう。

その話を聴けば、
そのときの状況は容易に想像できますし、
クライエントの悲しみや悔しさにも
十分に共感できます。

しかし、
クライエントが体験したときの感情や感覚は
クライエントの「暗黙知」に含まれます。

セラピストもある程度は
このような感覚なのだろうということは
想像できます。

しかし、クライエントがどんなに詳しく、
また感情をあらわにして
いかに自分がつらかったかを
話したところで、
あくまでも暗黙知の領域の話なので
セラピストには本当のところは
伝わらないのです。

一方、セラピストは
できるだけ想像力をたくましくし、
あたかも自分が
同じような体験をしたかのように
相手の思いを理解しようと努めます。

しかし、話をきいて湧き上がる感情や感覚は
あくまでもセラピスト自身の体験や
想像力の範囲内での理解でしかありません。

クライエントのものと
似通った感覚ではあったとしても
実際にはクライエントの暗黙知までは
共有できないので、
その思いや感覚は決して
一致することはありません。

ただ、セラピストが真摯に話を聴き、
共感的な態度をとることで、
クライエントに自分のことを
わかってもらえたと
感じてもらうことはできます。

つまり、自分の暗黙知の部分も含め、
セラピストは自分と同じ感覚を
共有してくれたと
思ってもらうことは可能です。

しかしこれは、
セラピストの言動や振る舞い、態度により、
クライエントは自分の思いを
暗黙知の領域も含め、
すべてわかってくれた、共有してくれたと
勘違いしてくれただけです。

セラピストはその勘違いをうまく利用し、
十分に理解した「ふり」を
しているだけなのです。

もっとも、
「ふり」をしているというよりは、
セラピスト自身もクライエントの思いを
暗黙知も含めわかったと
錯覚しているのかもしれません。

そうなると、
クライエントのことを理解できたと
本気で思ってしまっているセラピストも
いる可能性はあります。

いずれにせよ、
クライエントの暗黙知まで含め
本当にわかることなどできない限り、
わかった「ふり」は必要不可欠な
テクニックなのです。

こんなことを言うと、
わかった「ふり」をしていれば良いなんて、
黒丸はなんて不誠実な人間なんだと、
お叱りをうけそうですが、
しかし、これが現実なのです。

もちろん、本当に全く話も聞かず、
ただ聴いている「ふり」を
しているだけというのであれば、
これは問題ですし、
それはいずれバレます。

そうではなく、実際の場面では、
暗黙知の部分がある限り
本当にわかることなどできないと
割り切った上で、
あとは上手に「ふり」を取り入れながら、
自分の可能な範囲内で理解しようと
務めることでカバーすれば、
それでよいと言っているのです。

実際、クライエントは、
セラピストが本当に自分のことを
わかってくれたのか否かは、
セラピストの言動や雰囲気から判断します。

極端なことを言うと、
クライエントの言っていることが
あまりよく理解できなかったとしても、
理解できた「ふり」を上手にすることで、
クライエントはわかってくれたと、
よい意味で錯覚してくれるのです。

身も蓋もない話になってしまいましたが、
「暗黙知」が存在する限り、
言葉で伝えることの限界があります。

だからこそ、
クライエントの話を理解することにも
限界があるということです。

これがカウンセリングの現場で
起こっている現実なのです。

    ブログ:真実は言葉では表現できない②” に対して2件のコメントがあります。

    1. 林やよい より:

      黒丸先生

      受けます。笑いました。

      「すべてわかってくれた、共有してくれたと
      勘違いしてくれただけです。」

      この部分で大笑いしちゃいました。
      ここが黒丸先生の面白い部分なんだと‥

      でも確かに暗黙知がありますからそういうことに
      なるんだなと思います。

      クライエントにたくさん勘違いして
      貰える心理セラピストに私もなっていきたいと
      二マッとしながら感じています。

      いつもブログ更新して楽しい情報を
      ありがとうございます。

      そうそう、お正月に観ました!
      先生のオススメの映画「月の満ち欠け」

      生まれ変わりを覚えている切なさが
      グッとくる映画でした。
      涙ぐむ場面や心底、微笑む場面もあり
      人が生きていく妙を感じさせてもらいました。

      少々、生まれ変わるのが早すぎないか?
      とも思いましたが
      ソコはストーリーを面白くする為に
      必要だったのでしょう。

      ご紹介ありがとうございました❣️

    2. holicommu より:

      コメントありがとうございました。
      世の中すべて「錯覚」ですから。
      私たちはその「錯覚」を楽しんでいるだけです。
      「月の満ち欠け」は結局4回見ましたよ。
      DVDが出たらそれも買うつもりです。
      ありがとうございました。

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