ブログ:医療とお金にまつわる話

(前回より続く)
今回は、製薬会社から流れる
お金の問題についての話です。

例えば、
先ほどのデュオバン事件では、
臨床試験にかかわった大学に
合計11億円以上のお金が
奨学寄附金の名目で大学を通じて
論文担当教授に渡されていたことが
わかっています。

しかしこれは犯罪でもなければ
違反行為でもありません。
ルールに則った金銭の授受です。

しかし人間心理として、
講演料や原稿料、寄付金など
何かしらの名目で製薬会社から
お金をもらったら、
意識するしないにかかわりなく、
多少なりとも便宜を図ろうという
思いをもってしまうものです。

これが「返報性」の法則です。
要するに何かをもらったら
お返しをしなくてはと思う心理です。

特に、医者が学会発表をする場合、
影響力がそれなりにあるので、
製薬会社はいろいろな名目で
医者にお金を渡しますが、
そこには当然の見返りとして、
その製薬会社に都合のよい話を
してくれるという期待はあります。

しかし、ここに少々問題があります。
お金で医者を取り込んで、
薬を売り込み、
儲けようというのですから
お金の授受が正当であったとしても
倫理規定には反します。

実際、1993年にアメリカが、
1999年にはWHO(世界保健機関)が、
高血圧の基準値を大きく引き下げた際に
製薬会社からの影響を受けたとして
世界中から厳しく批判されました。

つまり、製薬企業が
降圧剤の売り上げを伸ばすために、
高血圧の基準値の策定に力をもつ
医学会や医師への利益供与を
行ったということです。

このような状況は
2003年まで続いていましたが、
アメリカでも有名医学雑誌の
名誉編集委員であるJ・シカラー氏の
内部告発などにより表面化しました。

シカラー氏の発言は、
臨床医学会および医師個人と
製薬会社が経済的に強く結びつき、
その影響を受けて基準値作りなどの
方向性が歪められている現状を
改革しようというものでした。

その結果、アメリカでは2010年に
医療保険改革法(オバマケア)の中に
サンシャイン条項が盛り込まれました。

これにより、製薬会社が医師に対して
利益供与をした場合には、
日本円で何千円というレベルでも
きちんと報告する義務ができ、
違反すると罰金が科せられるように
なりました。

日本でもその流れを受け
今では学会発表では必ず
利益相反(COI)があるか否かを
最初に伝えることになっています。

もっとも、1枚のスライドに
細かい字でたくさんの項目を詰め込み、
「COIは以下の通りです」と
1秒だけ見せられても誰も読めません。

おまけに、学会によっても異なりますが、
例えば、講演料として一つの企業から
1年間に50~100万以上のお金を
もらった場合は報告義務がありますが、
それ以下の場合は報告義務がありません。

なんとも、
抜け道が多いルールになっています。

要するに、
50~100万程度のお金の授受なら、
目をつぶりますし、
それ以上のお金であっても
報告さえすればよいということです。

このような状況では
どうしても公正な立場で、
基準値や診断基準を決めるというのは
難しいのではと思ってしまいます。

もっとも、大学病院の医局などは、
製薬会社から寄付金などの名目で
お金をもらわないと
やっていけないという現実があるので、
持ちつ持たれつの関係が
一概には悪いとは言えない部分もあります。

以上、3回にわたり
長々と書いてきたことをまとめると
以下のようになります。

製薬会社は一企業である限り、
できるだけ薬を売って利益を上げることが
企業存続の絶対条件。

高血圧などの基準値を下げれば、
今まで健康人だった人の多くが
病人となるため、
それだけで莫大な利益を得られる。

製薬会社は影響力のある医師や学会に
取り計らい、
ルールに則った多額の寄付金や謝礼を
医師側に支払っているのが一般的。

高血圧などの基準値を下げるにしても
科学的根拠のある論文が必要。

科学的根拠のある論文と言われるものでも、
出版バイアスやデータの改ざん、
ゴーストライターの存在などにより、
製薬会社の意向の沿ったものが
医者の目につきやすいように操作されてる。

製薬会社からの金銭的援助などにより
医者側も「返報性」の法則が働き、
多少なりとも便宜を図らなくてはという
思いが出てくる。

製薬会社に都合のよい論文を見て、
血圧の基準値をもっと下げた方が
いいという思いになると、
「確証バイアス」が働くようになり、
思いに反した論文はスルーされる。

こうしてことが運ばれ、
いつの間にか血圧の基準値を下げるという
製薬会社の意向に沿った方向で
学会の意志決定がなされ、
実際に基準値が下げられる。

こんな感じでしょうか。
でも、これらは一部を除き、
あくまでもルールに則ったやり方であり
違反行為ではありません。

製薬会社主導の医療なんて間違っている!
などと声を上げる人がいても、
社会を巻き込むほどの
大きなうねりにでもならない限り
まず無視されます。

何兆円も資産があり、
国にも影響力を与えるような巨大企業には
やはり、逆らうわけにはいかないのです。

こんな現実を見ると、
医者は製薬会社の手のひらで
転がされているだけ、というのも
まんざら嘘ではない気がしてしまいます。

権力やお金があるものが
世の中を牛耳る。
これが世の中というものなんですね。

寂しい気がしますが
これが現実だということを
認めざるをえません。

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