ブログ:患者さんを怒らせてしまいました

先日、久しぶりに
私の言い方がまずかったせいで、
患者さんを怒らせてしまいました。

その患者さんは、
50代の胃がんの患者さんでした。

恰幅がよく、
少々斜に構えた態度の男性でした。

ナースが言うには、
どうも切れやすく、
以前も外来で切れ、
大声を出したというので
要注意人物の印がカルテについていました。

私は、そういうレッテル貼りが嫌いなので、
カルテについていたその印を
私の意志で外させてもらいました。

そのような印があるだけで、
人はその人のことを
「要注意人物」という目で見ることになり、
それが態度に現れてしまうため、
患者さんとの信頼関係が
うまく築けなくなってしまうからです。

ところが、
なぜかこの患者さんに対しては
初診のときから、
淡々としたかかわりに終始していました。

その時は自分でも気づかなかったのですが、
今振り返ってみると、
無意識レベルで警戒心を持ってしまい
少々かまえてしまった可能性があります。

人は警戒心を持つと、
相手と少し距離を持とうとします。

親しい間柄であれば、
親しげなしゃべり方やかかわり方をしますが、
逆にあまりかかわりたくないと
思っている人には
あまり近づかれないように、
淡々と機械的にかかわるようになります。

そのような態度で接すると、
相手にしてみれば、
冷たいと感じるものです。

今回、初診のときは
普通に接しているつもりでしたが、
どうも冷淡な態度になっていました。

数週間後に2回目の外来に来たときも
私は同様のかかわり方をしていました。

患者さんの状態は、
幸いにして、
今のところ痛みなどの苦痛症状はなく、
大丈夫とのことでした。

新たにたずねることもなく、
状態も落ち着いていたので
診察はそれで終わるつもりでした。

ただ、患者さんは何もないと言いながらも
何か言いたげな雰囲気を感じたので、
「何かありますか?」とたずねました。

すると、言いあぐねながらも、
「何か違うんですよね」とボソッと
答えてくれました。

意味が分からなかったので、
どういうことですか?とたずねたところ
「先生としゃべっていると
なんかコンピューターと
話しているみたいなんです」
と言うのです。

その答えを聞いて、
一瞬で、自分の態度が
機械的であったことが理解できました。

「なるほどね、
でも私はいつもこんなしゃべり方なんで」
と、その場をつくろいました。

そうでも言わないと、
普段はもう少し穏やかな態度であることが
バレてしまうような気が
したからだと思います。

ですから、いつもこんな感じだと
ウソ?をついてしまいました。

患者さんの言わんとすることはわかります。
機械的なかかわり方ではなく、
もっと優しく人間味のある話し方を
してほしいと言うことです。

その思いを次のように言いました。
「もう少し人間的なしゃべり方をせい!
と言うことですね」

私としては、
自分をたしなめる意味と、
また、患者さんの気持ちを
代弁したつもりの言い方だったのですが、
これが怒りに火をつけてしまいました。

「そんな言い方はないでしょう!
もういいです!帰ります!」と言って、
診察室を出て行ってしまいました。

私は、「ごめんなさい、
そういうつもりではなかったんで、
すみません」と言うも後の祭りでした。

すぐさま、
同席していたナースがあとを追い、
しばらく話を聞いてくれていました。

彼にしてみれば、
死が迫っている人間に対して、
もう少し寄り添って
話をしてもらえると思ったのに、
思っているのと全然違っていたとの
ことだったようです。

もっともなことであり、
緩和ケア医であれば
当然そうあるべきです。

それが今回は
していなかったということなので、
弁解のしようがありません。

無意識の反応とは言え、
私の心の状態が患者さんへの態度に
現れてしまったわけです。

これは、意識としては
差別や偏見はいけないと思っていながらも
無意識レベルでは差別や偏見を持ってしまい
身体がそのように反応してしまうのと
同じです。

無意識の反応の怖さを
再認識させられたとともに、
大いに反省もさせられました。

今回の患者さんが悪くなった時、
果たして私のいる緩和ケア病棟に
入院してくれるのかどうかはわかりません。

でも、もし入院をしてきてくれたならば、
お詫びの印と言ってはなんですが、
精一杯、思いやりのある態度で
かかわらせてもらおうと思っています。

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