訳者の一人として私も関与した、
「心理療法・その基礎なるもの」
という本があります。

もう20年以上前の本ですが
今も売れています。

私が心療内科医として
最もあぶらの乗り切っているときに
かかわった本だったのですが、
この本が、
私の心理療法による治療の考え方を
一変させたと言っても過言ではありません。

それまで私は、
心理療法による治療の最大の武器は
「テクニック」だと思っていました。

つまり、様々な心理療法のテクニックを
できるだけ多く身につけ、
それを臨機応変に使いこなすことが
患者さんの治療には
最も有効だと考えていたのです。

実際、様々なテクニックを駆使することで、
多くの患者さんが劇的によくなった経験を
たくさんさせてもらいましたし、
その中のいくつかの症例は
論文にもまとめて発表しました。

ところが、です。
この本を読むとテクニックが
患者さんの治療に役立つのは
高々15%であり、
85%はそれ以外の要因だというのです。

それを知ったとき、
私が今までやってきたことを
全否定されたようなショックを受けました。

さらにショックだったのは、
治療「外」要因が、
治療がうまくいくか否かの
最大の要因であり、
全体の40%を占めているというのです。

治療外要因とは、
患者さん自身が持つ強さや価値観、
人とのつながりや環境など、
治療とは全く関係ない要因のことです。

平たく言えば、
患者さん自身に「治る強さ」があれば
誰が治療しても治るし、
その力がほとんどない患者さんは
どんな上手なセラピストがかかわっても
よくならないということです。

要は、セラピストの実力よりも、
患者さんの治癒力の方が
よくなるか否かの鍵を
握っているということです。

正直言って最初は、
この考え方を受け入れることが
できませんでした。

治療外要因で治るのであれば、
セラピストやカウンセラーは
必要なということになってしまうからです。

先ほども言ったように、
その頃の私は、
「テクニックで治す」という考え方に
どっぷりつかってしました。

自分でも気づいていませんでしたが、
「テクニックで治す」という考え方は、
実は、自分が最も嫌っていた、
「薬で病気を治す」という考え方と
基本的には同じなのです。

一般の医者は「薬」を使い、
私は「心理療法のテクニック」を使い
患者さんを治していましたが、
根底にある
「医者が患者を治す」という考え方は
全く同じなのです。

翻訳に関わることで
この本をじっくり読み、
冷静に考えることができたおかげで、
そのことに気づけたのです。

同時に、
最初は受け入れられなかった
この本で言っていることも、
もしかしたら正しいかもしれないと
思うようになりました。

治療外要因とは、
私が言うところの
「心の治癒力」のことであり、
患者さん自身が持っている
悩みや問題を解決する力だと考えれば
合点がいきます。

その患者さんに、
十分な「心の治癒力」が
備わってさえいれば、
どのような形であれ
いずれどこかでその力が発揮され、
その患者さんは
勝手によくなっていくのです。

そこには必ずしも
セラピストの関与は必要ないのです。

もしも、
セラピストの存在意義があるとするならば、
問題解決までの時間を
短縮することができたり、
「心の治癒力」を発揮しやすくなるような
サポートができるということです。

そう考えると、
セラピストの存在が
全く不要などということは当然ないのです。

これは、
自然治癒力で病気や症状の多くが
自ずと治るとしても、
医者の存在意義が
ないわけではないというのと
同じことです。

この本では、
心理療法によって
クライエントがよくなる要因は、
テクニックは15%、治療外要因は40%だと
言っていますが、
それ以外の要因としては、
信頼関係が30%、期待感が15%と
述べられています。

要するに、
患者さんとの信頼関係が構築できるような
コミュニケーションが取れ、
またその過程において、
患者さんによくなるかもという期待感を
抱いてもらえるようなかかわりができれば、
それらは「心の治癒力」を高める
サポートになるということです。

ただ、このような抽象的な話だけで
終わってしまったのでは
あまり面白くありません。

この本のいいところは、
治療外要因や信頼関係、期待感、
テクニック要因の各々について、
それらの要因を最大限に高めるための
大切な視点についても
詳しく書かれていることです。

それについては次回お話します。