「人は知っていることが
少なければ少ないほど
知っていることが多いと思うもの」

これは、社会契約論などで有名な思想家
ルソーの言葉です。

私はこのことをよく感じます。

例えば、先週紹介した
精神分析的な考え方などがそうです。

私自身、フロイトの精神分析に関しては
数冊程度の本は読んでいますし、
それに関連する交流分析や
アダルトチルドレンの類の本も
それなりに読みました。

また、心療内科医としての最初の数年間は
精神分析療法をベースに
治療をしていたくらいですから、
それなりに知っていると思っていました。

しかし、実際には
精神分析の考え方も少しずつ変わり、
発展してきていることを、
『「本当の自分」がわかる心理学』を読んで
初めて知りました。

もちろん、
今回私が知ったのはごく一部であり、
もっと深いところでは、
様々なつながりや可能性、
広がりや発展があると思います。

でも、そのあたりになると
今の私には全く分かりません。

要するに、
数年間、精神分析を勉強しただけで、
精神分析のことを
それなりに知っているつもりに
なっていましたが、
実際には全くそうでは
なかったということです。

これはたんに
知識量の問題を言っているのでは
ありません。

知識と経験の積み重ねにより、
どれくらい広がりやつながり、可能性を
感じ取れるようになったかということです。

自分は「知っている」と思っている人は、
ある程度知識を得ると
それでわかった気になります。

しかしそのような人は、
それ以上の進歩や発展はないので、
いつまでたっても本質の深さや
秘めた可能性などに
目が向くことはありません。

逆に、「知らない」と思っている人は、
もっともっと知ろうとするため、
ものごとの奥深さや可能性を感じ、
まだまだ自分の知らない世界が
広がっていることに
いやでも気づかされます。

一流のプロの人が
「まだまだです」とか
「毎日が勉強です」などと言うには
そのためです。

これはソクラテスの「無知の知」にも
通じる考え方です。

しかし、多くの人は少し勉強して
わかった気になると、
自分はたくさんのことを知っている、
結構、能力があると勘違いして
しまうのです。

このような勘違いは
「ダニング・クルーガー効果」として
知られています。

これは、能力の低い人が
自分のことを正しく評価できず、
自分は結構できると
過大評価してしまう傾向のことを言います。

これは専門家にも当てはまります。

特に医者という専門職は、
知識や能力、人間性に
大きな差があります。

でも、患者さんや一般の人からは、
明らかにヤバいとわかる医者以外は、
すべて「お偉いお医者さん」に
見えてしまうものです。

ですから、周りからちやほやされると、
自分はできると勘違いしてしまうのです。

本当にできる医者は、
当然よく勉強していますし、
探求心や向上心もあり、
自分はまだまだだと思うような
謙虚さもあります。

医学という専門分野であっても、
知れば知るほど、
自分は何も知らないということを
突きつけられることになるのです。

この正反対の思いを持っているのが
インポスター(詐欺師)症候群です。

これは、
自分の能力や成功を肯定できず、
自分はできるふりをしているだけであり、
本当は、自分には能力や才能などないと
思い込んでしまう傾向のことを言います。

スタンフォードやハーバード、
東大や京大といった超一流の大学の学生にも
よく見られ、
たんなる偶然で入れただけであり、
本当は、自分はこんなところに
いれるような人間ではないと
思ってしまうのです。

これは、高いキャリアをもつ、
優秀な女性にもよく見られます。

そのような人は、
たとえ成功したとしても
「ラッキーだっただけ」「みんなのお陰」
「誰だってできる」と言って、
自分の能力を認めようとはしません。

また、自分が偽物であることに
気づかれないようと思っているため、
人一倍熱心に働く傾向があります。

そのため、燃え尽き症候群や睡眠不足になり
倒れてしまうということもよくあります。

もっともこれは精神障害ではなく、
誰もが多かれ少なかれ持っている感覚だとも
言われています。

先ほどの
「ダニング・クルーガー効果」で見られる
自信過剰の人とインポスター症候群の人は
正反対の存在ですが、
自分を正しく評価していないという点では
共通しています。

皆さんはどちらの傾向がありますか?