緩和ケアに入院してくる患者さんの多くは
食事がほとんど食べられません。

食事が食べられなければ衰弱して
亡くなってしまうので、
家族は点滴を希望されることは
よくあります。

ところが、
一般の人は点滴に関して
大きな誤解をしています。

それは点滴で
栄養補給ができるという誤解です。

実際、点滴には
栄養分などはほとんど入っていません。

通常の点滴は500mlですが、
その中に入っている栄養分は
ブドウ糖20gくらいであり、
ご飯50g相当で80kcal程度です。

一般的に寝たきりの人でも
生きていくためには
絶対に必要なカロリーがあり、
それは1日に1,000kcal程度と言われています。

ですから点滴の1本や2本をしても
必要最低限の栄養すら全く補うことなど
できないのです。

でも、食事が食べられなくなると、
水分も十分に取ることができなくなるので、
脱水傾向になっていることがほとんどです。

そうであれば、水分補給をして
脱水を改善するために
点滴をするというのは
必要ではないかと思う人が
ほとんどではないでしょうか。

これはケースバイケースです。
もしも、まだ身体に余力があり、
不足した水分を補充することで
体のだるさが軽減し、
少し元気が出てくるような
状況の人であれば、
点滴も有効です。

しかし、末期がんの場合、
様々な理由で脚がむくんできますし、
患者さんによっては
腹水や胸水が溜まっている人もいます。

このような人は、
血管内から水分が漏れ出し、
脚やお腹、胸に水が溜まる状況に
なってしまっているので、
水分を補充しても、
さらにむくみや腹水、胸水を増やすだけであり、
脱水の改善にはならないです。

つまり、このような状況の患者さんは
点滴をすることで
より症状を悪化させて
しまうことになります。

ですから、
むくんでいるような患者さんには
原則として点滴はしません。

でも、そんな患者さんでも
一般病棟では
点滴をしていることがしばしばです。

なぜでしょうか?
それは医者のクセです。

医療現場で、水分や食事が摂れなければ
点滴をするのは当たり前のことです。

一般病棟は病気を治すところです。
通常は、病気が治れば
また食事も食べられるようになるという
前提があるので、
それまでの間、
点滴で必要な水分だけは補充し、
回復までの時間稼ぎをしているのです。

同じ感覚で、
末期がんの患者さんにかかわると、
むくんでいようが腹水が溜まっていようが、
当たり前のように
点滴をしてしまうことになるのです。

その結果、全身がむくみ、
ひどい人になると眼球(白目のところ)も
むくんできます。

昔は、末期がんの患者さんでも、
食べられなくなると当たり前に
高カロリー輸液(太い血管から
1日2,000kcalほどの栄養を入れる点滴)を
していたので、
最後は、全身がパンパンになって
亡くなっていく人もたくさんいましたが、
さすがに今はあまり見なくなりました。

ただし、末期がんの患者さんで、
全身がむくんでいるような人でも、
それでも点滴にこだわる人はいます。

もっとも、本人がというよりも
家族が強く希望する場合が多いのですが。

その場合は、200ml程度の点滴をします。
その際の点滴は
まさにプラシーボ的な存在になっています。

つまり、
点滴をしてもらっているというだけで、
どこか安心感がありますし、
これで少しやよくなるかもという
期待感が出てくるものです。

ただし、手足がむくんでいると
血管が見えないため、
点滴ができない場合もしばしばです。

そんなときには
大量皮下注という方法の点滴をします。

これは、血管に点滴をするのではなく
お腹などの皮下に点滴をする方法です。

皮下に点滴をしても
毛細血管から血管に入りますので、
通常の点滴と同じ効果があります。

いずれにせよ、
通常の点滴は栄養補給ではなく
水分補給の意味合いが強いのです。

私は緩和ケアに入院する患者さんには、
最後の最後まで点滴をすることで
患者さんをかえって苦しめるようなことだけは
しまいと思っています。