ブログ:医療の中の儀式②

前回もお話したように、
儀式や形式は無意味なものではなく、
人の心に影響を与えるという意味では
とても大切な存在なのです。

特に医療現場では、
儀式がとても重要になってきます。

もっともここで言う儀式とは、
皆さんがイメージする儀式とは少々異なります。

例えば、薬を飲むという「行為」は
私から見れば儀式なのです。

薬を飲むことが儀式!?と
思われるかもしれませんが、
その意味することは、こういうことです。

多くの人は、
薬の効果により風邪がよくなったり
痛みが治まったりすると思っています。

しかし実際は違います。
皆さんもご存知のように、
プラシーボ、
つまり乳糖やでんぶんの粉であっても、
それを飲むことで病気や症状がよくなることは
しばしばあります。

また風邪症状などは、
薬を飲む飲まないに関係なく、
自然経過で治っていくものです。

つまり多くの場合、
安心感や期待感という「心の治癒力」や
自然治癒力の働きにより、
症状や病気はそれなりに改善するのです。

もちろん、薬そのものの効果もありますが、
それに勝るとも劣らず、
心の治癒力や身体の治癒力(自然治癒力)により
よくなっているという側面があります。

ただし、安心感や期待感を引きだすためには、
儀式が必要になります。
それが薬を飲むという「行為」です。

薬を飲むことにより、
風邪や痛みなどの症状が楽になると
多くの人は信じているので、
薬を飲むという行動を実際にとることで、
「これで直によくなる」という
安心感や期待感が生まれるのです。

つまり、この安心感や期待感を引きだすことが
儀式の目的であり、
薬は儀式に必要な道具なのです。

もちろん、風邪薬や痛み止めには
症状を軽減させる効用があることは事実です。

しかし、それ以上に薬を飲むという行為により
「心の治癒力」のスイッチが入り、
それが安心感や期待感を生み出し、
症状を緩和させている部分があるのです。

そういう意味で、薬を飲むという行為は、
安心感や信頼感を引きだすのに必要な
「儀式」なのです。

点滴も全く同じことが言えます。
一般的な急性腸炎の場合などは、
しばしば腹痛や下痢、嘔吐を伴います。

そんな場合、病院を受診し
急性胃腸炎という診断をつけられ、
とりあえず点滴をするという場合が
しばしばあります。

この診察から点滴に至るまでの
一連の過程が「儀式」なのです。

医者が必要だと判断した点滴、
もしくは患者さん自身が、
してもらいたいと思っている点滴をすることで、
安心感や期待感が引き出されます

その点滴の中に、
痛み止めや吐き気止めが
入っていなくても全く構いません。
(ちなみに下痢止めの点滴薬はありません)
単なる水(生理食塩水)でもよいのです。

患者さんは点滴を
してもらったということ自体に満足感を抱き、
それが心の治癒力を発動させ、
さらに自然治癒力も機能し始めるため、
症状は自ずと改善していくのです。

要するに点滴は
安心感や期待感、さらには満足感を引きだすための
「儀式」に必要な大切な道具なのです。

さらに言うならば、
手術は最大の「儀式」です。

ある胃がんの患者さんは、
手術をしてもらったことで、
胃がんは治ったと思いこみ、
実際、胃がんは消えてしまいました。

実際には、開腹したものの、
すでにお腹全体にがんが広がっていたため、
何もせずにお腹を閉じただけの
手術だったにもかかわらずです。

これなどは、手術という行為が
心の治癒力と身体の治癒力を引きだし、
がんを消滅させたと理解できます。
がんの自然寛解(かんかい)と言われる現象です。

これは極端な例ではありますが、
プラシーボ手術については
いくつかの論文があります。

変形性膝関節症の手術や椎体形成術、
メニエル病の手術に関しては、
実際の手術をしたのとプラシーボ手術
(手術をしたポーズだけで実際には手術はしない)
による比較研究を通して、
プラシーボ手術でも、
実際の手術と同等の効果があることが
確認されています。

これは何を意味しているかと言うと、
手術も期待感や満足感といった
心の治癒力を引きだす「儀式」としての側面が
十分にあるということです。

ただし、誤解しないでもらいたいのは、
薬や点滴、手術には効果はないなどと
言うつもりは毛頭ありません。

それらには多かれ少なかれ効果はあります。
ただし「儀式」としての側面もあり、
それは患者さんの「心の治癒力」を引きだすのに
大きな役割を果たしているということです。

そして心の治癒力の働きと、
薬や点滴、手術の効果と相まって、
症状や病気を改善させる力は、
最大限に高められるというわけです。

しかし、多くの医者や患者さんは、
薬や点滴、手術だけの効果でよくなっていると
勘違いしているのです。

いずれにせよ、
医療における「儀式」の効果は絶大であり、
その際に使う薬や点滴は、
儀式には欠かせない大切な道具なのです。

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