ブログ:新型コロナウィルスと認知バイアス②

今も連日、新型コロナウイルス(以下CV)が
新聞やニュースを賑わせていますが、
今回は報道する側の認知バイアスについて
考えたいと思います。

ちなみに、認知バイアスとは、
人が無意識にしてしまう
ゆがめられた思考や判断のことです。

私たち医者の世界では、
患者さんに病気の説明をするさい、
その説明の仕方いかんで患者さんの判断が
正反対になることはよく経験します。

そこには様々な要因が関与しますが、
そのひとつに「フレーミング効果」という
認知バイアスがあります。

例えば、次の二つの言い方では、
どちらの方が治療を受けようという気に
なるでしょうか。

①死亡率が10%の治療
②生存率が90%の治療

たいていの人は②です。
中には①の言い方をされたら
治療をやめる人もいるかもしれません。

全く同じ内容のことを言っているのですが、
表現の仕方次第で、相手に与える印象を
大きく変えてしまうのです。

他にもたくさんあります。
女性がたばこを吸い続けると
肺がんになるリスクが
2倍になりますと言うのと、
2%が4%になりますと言うのとでは、
全く危険性のイメージが異なります。

さらにはタバコを吸い続けても
肺がんにならない率は96%ですと言えば
さらに危険性のイメージが減ります。

さてCV報道についてですが、
テレビや新聞を見る限り、
まさにこれと同じことを
しているなあという思いが強くあります。

例えば、
「日本で100人のCV感染者が出ました」
「ついにCV感染で1人亡くなりました」
といった類の報道がそれです。

100人という数字を聞いて
不安を覚える人は多いと思いますが、
ではこんな言い方をされたらどうでしょうか。

「日本では1億1999万9900人は
未だCVに感染していません」
「日本ではCV感染による生存率は99%です」

つまり同じことを言うにせよ、
表現の仕方いかんで、
不安のレベルは
全く変わってしまうということです。

しかし報道は概して危険性や不安を
煽り立てる表現をします。
ここにも認知バイアスのワナが隠れています。

人はポジティブなニュースよりも
ネガティブなニュースの方が
気になる傾向があり、
この無意識のクセを
「ネガティビティ・バイアス」と言います。

報道側からすれば、
より多くの人に見てもらいたいわけですから
できるだけ目を向けてもらう必要があります。

だからこそ、安全性よりも危険性という
ネガティブな側面を前面に出した方がよいのです。

逆に、ポジティブな報道は
さりげなくしかされません。

「CVに感染しても80%の人は軽症です」
「中国の2万7000人のCV感染者のうち
2万人はすでに退院しています」
といった報道は、前面に出しても、
あまり興味を持ってもらえないのです。

このように連日CVのニュースが流れ、
誰もがネガティブなイメージを強くすると
最初はそんなに心配する必要はないと
思っていた人も、
周囲がみんな心配するようになると
だんだんと自分も心配になってくるものです。

こうして不安を持つ人は
どんどん増えていくのですが、
ここには「社会的証明」という
認知バイアスが働いています。

これは、行列のできるラーメン屋さんは
きっと美味しいに違いない、
だから食べに行こう、
という心理によく表れています。

つまり、周囲の人と同じように行動すれば
間違うことはないだろうという無意識のクセです。

「この標品が一番よく売れています」
「注文の電話がかかりにくいことがあります」
といううたい文句は、
この社会的証明を利用した常套句です。

こうすることで、
みんなが買おうと思っているのだから、
自分も買おうという気にさせることができます。

ですから、認知バイアスについての知識がなければ
いとも簡単に誘導されてしまうのです。

連日の報道により、すでに多くの人が
CV感染への不安感を持っています。
そのため人が集まるイベントは
どんどん中止になっています。

そんな情報をたくさん聞けば、
イベントを予定している主催者は
みんなと同じように中止しなくては
いけないのではという気になります。
これが社会的証明による行動です。

実際、そのあおりを受け
2月29日に東京で開催予定であった
コミュニケーション医学研究会は
中止せざるを得なくなりました。

40人程度の申し込みがあり、
この程度であればリスクはかなり低いため
私はやる気満々だったのですが
講演依頼をしていた講師が
延期を提案されたのでやむをえませんでした。

このように、私たちは認知バイアスにより
しばしば誤った判断をしてしまいますが、
それが報道の仕方いかんで、
どんどん拡散していきます。

その結果、間違った判断であったとしても、
それが大多数を占めることになると、
残念ながら正しいことになってしまうのです。

平成21年に大騒ぎとなった
新型インフルエンザのときのように、
皆さんの不安がピークになり、
世の中が混乱するようなことがないことを
願わずにはおれません。

    ブログ:新型コロナウィルスと認知バイアス②” に対して4件のコメントがあります。

    1. 山もっちゃん より:

      昨夜、近くのディスカウントスーパーへ子どもの遠足のお弁当の材料を買いに行くと、駐車場はほぼ満杯。何事かと思ったら、皆さんトイレットペーパーやティッシュを買い占めてるんですよね。
      店に入るとペーパー類の棚は空っぽ。
      スマホ片手に『ないよ、ないよ』なんて声があちこちから聞こえて、プチパニック状態の店内でした。私が店に入った目的は、お弁当の材料を買うことだったのに、周囲の動きを見て『買わなきゃいけない』ような気になるんですよね。
      こういうのも【認知バイアス】っていうんですかねぇ。

      不安が連鎖していくような…、お互いの行動で不安を煽ってしまっているような…

      周りの動きや顔つき、それに反応している自分自身の心理に気付きながら、なんだか『怖いなぁ』と思った今日この頃です。

    2. 高橋一浩 より:

      おはようございます、黒丸先生。本当に同感です。情報リテラシーが必須の現代ですが、マスコミの報道の仕方は昔も今も変わっていません。分かりやすいタイトルや内容を目指すのは理解できますが、それを受け手がどう解釈するかに関して、マスコミは責任を取っていません。「日本ではCV感染による生存率は99%です」という表現を併記すれば、受け手も立ち止まって再考するでしょうね。フェイスブックやYou tubeで内容を理解せずに、いいねしてしまう。チェーンメールでガセネタを広めてしまう、情報源も確認せずにガセネタを信じてしまう、情報がないと不安でしょうがない、異なった情報が存在すると、不安が増強され、更に情報を追い求める。情報不安神経症・情報依存症傾向ですね。正しく情報を発信しようとする態度をもつ人を見つけておくしかないですね。

    3. holicommu より:

      高橋先生、いつもありがとうございます。認知のクセをもう少し皆さんが理解していると、マスコミ報道に巻き込まれないですむのですが、残念です。

    4. holicommu より:

      それが、社会的証明という認知バイアスに基づく行動です。間違ったことでも正しいと思ってしまうところが怖いですね。ですから、さくらを使ってオープンしたてのお店に並んでもらうのもよくやる手ですが、これもその心理を利用したものです。騙されないように。

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