前回は、人は知らず知らずのうちに
ウソを言っているという話をしました。
今回はその続きです。

私が心療内科医をしていたときは、
初診患者さんは1時間、
再診は15分の枠を取って診ていました。

2回目の再診時には、
症状がどれくらい変化しているのかを
常に確認していました。

その際、「前回と比べてどうですか?」と
たずねるのですが、
たいていの患者さんは
「全然変わっていません」と言います。

実際には、ほとんどの患者さんに
変化がみられていることは、
その後の話でわかるのですが、
その段階では、何も変わっていないという
認識しか持っていません。
つまり、これが自覚のないウソなのです。

この段階では、
患者さんは「変わっていない」という認識なので、
「実際には変わっているんではないですか?」
などと、無理に聞き出そうとすると、
反発を生むことになり、
かえって心を頑なにさせてしまうことになります。

そうではなく、
こういう場合も相手の無意識の力を
うまく利用すればよいのです。

そこで有用なのがスケーリングという手法です。
これは、状態でも行動でも何でもよいのですが、
それを数値化して表現してもらうというものです。

例えばこんな具合です。
「最悪の状態が0点で、
もうすっかり良くなったという状態が
100点だとしたら、
初診のときは何点で、
今は何点くらいの状態ですか?」

すると、多くの患者さんは
こんなことを言います。

「前回来たときは、最悪に近かったんで
10点くらいでしょうか、
今回もほとんど変わっていないので、
20点くらいでしょうか」

無意識では、
10点が20点になったということを
感じているからこそ、
このような発言になるのですが、
言っている当の本人は
全く変わっていないという認識しか持っていません。

なぜ、このようなことが起こるのかというと、
人が変わったと思えるのは、
大きく変化をしたときであり、
少しだけ変わったとしても、
それは変わったとは認識されないからです。

つまり、70点くらいになったと感じたならば、
誰もが「変わった」と認識できるでしょうが、
10点が20点や30点になったとしても、
そんなのは変化のうちに入らないと
知らず知らずのうちに判断してしまうため、
「全然変わりません」という表現に
なってしまうのです。

しかし無意識は知っているのです。
10点から20点には変化しているということを。

これをうまく利用して質問すれば、
変化しているという事実に
気づいてもらうことができます。

例えば、
「どんなところから、
10点が20点になったということが
わかりますか?」
とたずねたらよいのです。

このような質問をされると、
少しだけ変わってきた理由を
言わざるをえません。

例えば、
「体のだるさが少しはましな気がします」
「まあいいかと思えるようになったから」
といった答えが返ってきます。

このように、質問に答えることで初めて、
少しは変わってきているなあと、
自覚することができるようになるのです。

無意識は平気でウソを言います。
つまり、自分の都合のいいように話を盛ります。

しかしその一方で無意識は、
変化しているという事実も
しっかり感じ取っているのです。

ただその事実は自分にとって、
あまり受け入れたくない事実なので、
意識に上がることはありません。

だからこそ、抵抗されることなく
その事実を言語化してもらう必要があるのです。

その際に大切になってくるのが、
無意識が感じている事実に
目を向けざるを得ない「質問」なのです。

スケーリングという質問の手法は、
その意味でとても優れた質問法だと言えます。
皆さんも、ぜひ使ってみてください。