パネルディスカッションの後半のやり取りは、
結構、示唆に富むよい内容だったと思います。

先ず、夏苅先生自身が大きく変わることができた
一番のきっかけは何だったのでしょうか?
というストレートな質問をぶつけてみました。

それに対する答えは以下の通りでした。

これはきっかけと言えるかどうかわかりませんが
私の35年間は本当に
死んだ魚のような目をして生きていたし、
患者さんから「先生、元気を出して下さい」と
言われるほどでした。

さらにこの35年間は
本当に、全くと言ってよいほど
出会いもありませんでしたし、
学生時代や大学時代も
誰一人友達もできませんでした。

でも、その間何もせずに
じっとして過ごしていたことに
意味があったと思います。
つまり、待つことが大切だったと思います。

その35年が過ぎてから、
大きなうねりが来て、
いろいろな人との出会いや出来事があり、
どんどん自分が変わっていきました。

35年間、何もせずに
待つということをしたからこそ機が熟し、
そこから一気に
変化が起きたのではないかと思います。

それからもうひとつの大きなきっかけは、
家族や自分の過去のことを公表したことです。

自分の中にあったドロドロした思いや
親や世間への恨みを持ち続けたまま
生きていることが
とても苦しかったのは事実です。

そんなある時、
自分と同じ境遇である
統合失調症の母親を持つ女性が、
自身のことを漫画本にして出版しました。
それを読んで私はとても勇気をもらいました。

その本との出会いがきっかけで
自分も過去のことを公表しようと決めました。

みんなから何て思われるか不安でしたが、
思いの他、皆さん方から
好意的に受け入れてもらえ、
このように講演をする機会もすごく増えました。

人は承認されることにより前に進むことが
できるようになります。
私も、自分や母のことを公表し、
自分のことを受け入れてもらえたことで、
みるみる元気になっていきました。

それからは患者さんの話を聴く余裕も生まれ、
医者になり30年経ってようやく
本当の臨床医になれた気がします。

この話はちょっと感動的でした。
特に「何もせずに待つ」ことが大切だという話は
経験した人でなければ言えないことだなと
思いました。

通常は、何とかしよう、何とか治そう、
今の状況を変えなくてはと
あれこれもがくのが普通ですが、
夏苅先生は「じっと待つこと」が、
その後に大きく展開していく人生の
原動力になったと言うのです。

私も心療内科時代、
たくさんの患者さんの治療に当たっていましたが
二進も三進もいかず、
とりあえず「待つ」ことを何年か続けていたら、
自ずと視界が開け、なぜかよくなった患者さんが
何人もいました。
まさに、そういうことだと思います。

その後、夏苅先生の発言を受け、
辻先生にも関連した質問を振ったのですが、
これがまた味わいのある発言でした。

人はつながりを持ったり、
そこに意味を見出したりしながら
生きていますが、
意味のあるつながりを作るのには
時間が必要なのです。
それが「待つ」ということの本質です。

なかなか味のある発言だと思いませんか。
その後、星の王子様の話を引用しながら、
「時間を無駄にすることの大切さ」についても
言及していました。

時間を無駄にするという表現は
ネガティブなイメージがありますが、
そうではありません。

誰かとただ一緒にいる、
ボーッとして時間を過ごす、
たわいもない話をする、
ありきたりのかかわりをするといったことは、
特に生産的なことを
しているわけではありません。

これを「時間を無駄にしている」と
表現しているのですが、
でも、その無駄とも思える時間があるからこそ
今まで見えなかったものが見えてきたり、
何の意味もないと思っていたことに
意味を見出したりすることができるのです。

つまり「時間を無駄にする」ことと、
「待つ」ということは同じことなのです。

この言葉にもグッときました。
一見、無駄に思える時間でも、
「待つ」時間の積み重ねがあるからこそ、
人は少しずつ気づき、少しずつ感じ、
少しずつ変わるのです。

そのような小さな変化の積み重ねがあって初めて
あるきっかけにより、
人は大きく変化するのです。

ただし、目に見えるのは
最後の大きな変化だけですが、
実際には目に見えず、気づかれることもない
小さな変化や思い、行動、意味の積み重ねが
大きな変化を引き起こすためには必要なのです。
なかなか深い考察だと思いました。

後半のディスカッションはこんな感じで、
内容的にも新たな気づきをもたらす
有意義で充実した話し合いができて、
とても満足しています。

2年後にまたシンポジウムを開催しますので、
その時はぜひ、会場でお会いしましょう。

本当にありがとうございました。

なお、もうひとつのブログには
「シンポジウムの舞台裏」を書きました。
裏側で起きていたバタバタ劇を知りたい方は
こちらもご覧下さい。