ブログ:距離感と「好意」

前回は、
医者と患者との距離感を縮めるためには
医者が肩の力を抜いて、
親しみを持ってもらうような振る舞いを
することがポイントだと話しました。

では、患者さんとの距離感は
近ければ近いほどよいのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。

距離感が最も近づくのは、
お互いが恋愛感情を持っているときです。

しかしこれはあくまでも
プライベートでの話であり、
治療やカウンセリングにおいては、
当然のことながら
それは不適切な距離感だと言えます。

恋愛感情までは行かないまでも、
患者さんが治療者に対して
「好意」を持つことは
ごく一般的に見られることです。

「私先生のこと大好きです!」などと
言われたとしても、
診察室という限られた空間の中だけの
ことであれば、
通常は問題ありません。

なぜならば、治療者が適度に距離感を
調整することができるからです。

そのような患者さんの言動はさりげなくかわし、
何事もなかったかのように
そのまま治療を続けていれば、
患者さんもそれ以上
接近してくることはなくなります。

このように、
患者さんが接近し過ぎだなと感じたならば、
こちらが少し引くことで、
適度な距離感を保つことができます。

ただし、中には問題を起こす患者さんも
いないわけではありません。
それは、プライベートで会うことを
強要される場合です。

当然そのような要求には応えられないので、
丁重に断りますが、
そんな患者さんの中には、
ときにストーカーに発展する人もいます。

私も過去1人だけですが、
3年ほど追いかけられたことがありました。

心療内科医や精神科医、カウンセラーのように、
患者さんの心の問題を扱う立場にいると、
長い治療経験の中では、そのようなことは
一度くらいはあるものです。
これも人生経験のひとつだと私は思っています。

もっとも、最初は適切だった距離感が、
お互いの恋愛感情にまで
発展するほど縮まることも
実際には少なくありません。

心療内科医や精神科医が
患者さんと結婚するというパターンが多いのは、
そのためだと思われます。

もちろん、医者と患者さんは
結婚すべきではないなどと
言うつもりはありません。

私の同僚にも、
このパターンで結婚した医者が
何人かいますので、
それで重大な問題が生じることがないならば
それはそれでめでたい話です。

では、医者が患者さんに
「好意」を抱いた場合はどうなのでしょうか。

医者も人間である限り、
患者さんに「好意」を持つことだって
当然あります。
この場合は、自ずと距離感を
縮めてしまうことになります。

あとは相手の反応を見ながら、
恋愛感情に発展しない
ギリギリの距離感を保ちながら、
通常のかかわりを続けていくことになります。

このような状況においては、
治療を楽しむことができます。

その患者さんが来るのが楽しみになったり、
診察時間が自ずと長くなったりしますが、
治療という形をとっている限り、
そしてプライベートなかかわりをしない限り、
私は悪いことではないと思っています。

もちろん、本来の目的である治療を
蔑ろにするわけにはいきませんが、
実は、距離感が縮まれば
治療もうまくいくことも多く、
楽しむことそのものが
治療になる場合もしばしばです。

そう考えると、
たまには、治療を楽しめる患者さんがいても
いいのではないでしょうか。

ただし、距離感が近づきすぎたという場合は、
治療者が少し離れることで
軌道修正するという客観性と冷静さを
常に持っておく必要はあります。

なお、距離感が縮まる場合、
「好意」とはちょっと異なるタイプの
感情もあります。
それが「何とかしてあげたい」という思いです。

医者やセラピストが、
この患者さんを
何とかしてあげたいと思うあまり、
知らず知らずのうちに患者さんに
のめり込んでしまうというパターンです。

これは患者さんに
「巻き込まれている」という状態であり、
これもまた臨床の場面ではよくあることです。

「巻き込まれる」ことに関しては、
以前にもブログで書いたので
興味のある方はそちらをお読み下さい。

ブログ『クライエントに巻き込まれないために』 
ブログ『「何とかしてあげたい!」は危険信号!?』

距離感の問題は、考えれば考える程、
微妙な問題を孕んでいることがよくわかります。
だからこそ面白いと私は思うのですが。

皆さんは「距離感」の問題、
どうお考えでしょうか。

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