ブログ:医者は薬を切ることができない

患者さんが飲んでいる薬を見ると、
10種類以上飲んでいる人はごく普通にいます。
全て必要な薬であれば、それもやむを得ないのですが
複数の病院やクリニックにかかっていたりすると、
そこから同類の薬が出ていることが多く、
しばしば薬が重なっていたりします。

最近はジェネリック(後発品)が一般的になり、
名前は違うが中身は同じ薬というのがたくさんあります。
違う薬だと思って飲んでいたら
同じ薬だったということもよくあります。

医者も薬が多くなってくると、
いちいちそれを見直す余裕もないので、
出した薬はそのまま継続し、新しい訴えや症状があれば
それに対してまた新しい薬を加えるということになるため、
薬はどんどん増えることになります。

薬屋さんや製薬会社からすれば、
そりゃ、商売ですから
どんどん薬を飲んでもらった方がよいのでしょうが、
飲まなくてもよい薬まで飲んでいる
患者さんからすればよい迷惑です。
量が多いのであまり飲みたくないと思いながらも、
仕方なく飲んでいる患者さんも少なくありません。

特に緩和ケアに来られる患者さんを診ていると、
本当に気の毒になってきます。
先日も、肝臓がんの末期で腹水も溜まり
食事も食べられなくなってきている患者さんが
入院してきました。
食事もままならないのに、
お医者さんからもらった薬だけは
ちゃんと飲まなくてはと言って飲んでいました。

この患者さんが飲んでいる薬を見てみると、
降圧剤が3種類、コレステロールの薬が1種類、
骨粗鬆症の薬が1種類、
胃薬が1種類の合計6種類でした。
入院時の血圧は120程度であり、
食事もあまり食べられなかったので、
残された時間はあと1ヶ月くらいだろうと思われました。

こんな患者さんに、これらの薬は必要なのでしょうか。
これらはすべて慢性疾患の薬であり、
今は全く不要な薬です。
薬を飲むのであれば、
その分少しでもよいから食事をして下さいと伝え、
全ての薬を中止にさせてもらいました。

患者さんも飲まなくてはいけないと思っていたので、
食事が食べられなくても薬だけは飲んでいたのですが、
実際にはその逆であることを説明すると、
ずいぶんと負担が減ったと喜んでいました。

この患者さんも、
もともと近医に高血圧や高脂血症で通院していました。
当時からもらっていた薬を長年飲んでいたのですが、
がんが見つかり、腹水がたまり、
血圧が下がってきても
薬の見直しはされませんでした。
もっとも、これが一般的であり、
全身状態が悪くなってきたから、
不要な薬は減らしましょうと言って
減らしてくれる医者の方が少ないのです。

2015年4月には日本老年学会などが、
高齢者には「中止を考慮すべき薬」として
50種類が発表されました。
今さらという感もありますが、
一歩前進したのでよしとしましょう。
今度は、末期がん患者さんに対する
「中止すべき薬」リストを
是非とも発表してもらいたいものです。

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