以前にも、がんの進行が自然に止まってしまう
がんの自然寛解(かんかい)の話をしました。
この場合、ほとんどがポジティブな心の状態が
がんの進行を抑制すると考えられていますが、
実は、必ずしもそうとは限らないということを
教えてくれた患者さんがいました。

その患者さんをAさんとしましょう。
Aさんは80代の肝臓がんの男性でした。

Aさんは、肝臓がんが見つかり
手術を受けたのですが再発、
それに対して何回か
がんを焼く治療を受けましたが、
さらに十数個ものがんが再発、
結局、この段階で
もうこれ以上の治療はできないと判断され、
私の緩和ケア外来を紹介されてきました。

私にとって印象的だったのが、
Aさんはとても不安そうだったことです。
「自然寛解」する多くのがん患者さんは
ポジティブであっけらかんと
している人が多いのですが、
それとは全く対照的な患者さんと言っても
よいような人でした。

今までの経験から、
不安を全面に出すような患者さんが、
自然寛解することはまずないと思っていました。

ところが驚いたことに、
この患者さんは半年後には十数個あったがんは
きれいに消えてしまい、
3,000以上あったAFPという腫瘍マーカーも
年を追うごとに200台、70台と
低下していきました。

正直言って、
このような不安の強い患者さんのがんが
自然寛解するとは思っていなかったので、
本当に驚いたと同時に、
いかに自分が勝手な「思い込み」を
していたのかということを
再認識させられました。

それ以来、前向きだろうが不安だろうが、
どんな心の状態であったとしても、
がんの自然寛解の可能性はあるということ、
そして「心の治癒力」の可能性は
私が考える程、小さいものではないと
考えるようになりました。

Aさんのがんは、なぜ自然寛解したのか
はっきりしたことはわかりませんが、
ただ、多少思い当たることはありました。

彼は自分なりの呼吸法と運動を毎朝しており、
また週に2回ほどですが、
障害者施設のボランティアに行っていました。

自分の身体を整える呼吸法や運動療法は
自己治癒力の活性化にはプラスに働きますし、
また、ボランティアに
積極的に取り組むという姿勢や意識は
「心の治癒力」を高めた可能性が
あったのではないかと思っています。

いずれにせよ、患者さんが持っている
表面的な感情や思い、
それがポジティブであろうと
ネガティブであろうと、
そんなことにはあまりこだわらなくなりました。

大切なのはその人の心の奥にある、
「その人らしさ」の方であり、
それががんの自然寛解の
原動力になるのではないかということを
Aさんとのかかわりを通して、
学ばせてもらいました。