医療におけるコミュニケーションの重要性は
今さら言うまでもないことですが、
実は、医療者のコミュニケーションそのものが
「治療」になっていることは
あまり知られていません。

ところが、コミュニケーションが
治療になることを実証している研究は
たくさんあります。

例えば、2008年にカプチャックが
ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルという
有名な医学雑誌に発表した
過敏性腸症候群の患者262名に対して
行った研究は有名です。

これは対象者を三群に別け、
ひとつ目のグループには何も治療をせず、
二つ目のグループは、
礼儀正しいが冷淡で無口な治療者から
プラシーボの鍼治療を受けました。

ここで言うプラシーボの鍼治療というのは、
本当の鍼を使うのではなく、
先の丸まった針のような形をしたものを使って
鍼治療をしたふりをするというものです。

三番目のブループは、
心やさしく思いやりのある治療者から
プラシーボの鍼治療を受けました。

この治療者は、その上45分間、
患者さんの横に座って心配事を聞き、
安心させるような精神的サポートも行いました。

その結果、無治療のグループの患者さんは、
28%に症状の軽減が見られました。

一方、プラシーボの鍼治療を受けた患者さんは
44%に症状の軽減があったのに対して、
プラシーボの鍼治療と精神的サポートの
両方を受けたブループでは
62%の患者さんに症状の軽減が見られました。

この臨床研究から何がわかるかというと
第一に、何もしなくても
症状が改善する患者さんが
28%もいるということです。

つまり、臨床試験に参加しているという
思いだけでよくなってしまうことも
あるということです。

言い換えるならば
必ずしも治療的なかかわりをしなければ
よくならないというわけでは
ないということであり、
「何もしない治療」の典型例とも言えます。

第二に、プラシーボの鍼治療でも
十分に症状が改善するということです。
二番目のグループでは、
治療者は無口で冷淡な人なので、
治療者のかかわりによる治療への影響は
さほど大きくないのではと思われます。

そうだとすると無治療でよくなる場合は28%、
プラシーボの鍼治療で
よくなる場合が44%ですから、
差し引き16%が
プラシーボの鍼治療そのものの効果だと
考えることができます。

さらに第三のグループでは、
プラシーボの鍼治療の効果に加え、
治療者のやさしく思いやりのある態度と
精神的サポートの効果も
上乗せされたと考えられます。

当然このブループの患者は、
治療者のやさしい態度にホッとするでしょうし、
その上、精神的サポートを45分も
してもらえたとあれば、
かなり心の状態は穏やかになり
安心感や信頼感も
強く感じるのではないでしょうか。

つまり66%というのは、
治療者のかかわり方が
いかに患者さんの症状の軽減に
影響を及ぼしているのかを
表している数字だと思われます。

もちろん、これにも
プラシーボの鍼治療などによる影響も
含まれているので
先程と同様に考えると、
治療者の態度や精神的サポートそのものの効果は
66%と44%の差、
つまり22%程度と推定されます。

このようなことから、
プラシーボによる治療であっても、
治療を受けたという期待感や、
治療者のかかわり方や態度による
安心感や信頼感が
いかに患者さんの症状の緩和に
影響を及ぼすかということがわかると思います。

ましてやこれが、
本当の薬や手術であったならば、
それらによる効果も加味されることになるので、
より治療効果も上がると思われます。

病気や症状は治療そのものだけではなく、
治療者のかかわり方や態度が
大きく治療効果を左右することが
おわかり頂けたでしょうか。