前回は、解決するためには
解決しようとするな!という話をしました。
実は、実際のコミュニケーションの中でも、
このような逆説的な言い方を
敢えてすることが結構あります。

例えば、
過去の後悔するような出来事を思い出しては、
いつまでもクヨクヨしているような
そんな人がいたとしましょう。

その人に対して、
クヨクヨしたって仕方ないし、
過ぎ去ったことは変えられないのだから、
そんなことは忘れて前を向いて歩こう!
などと言っても全く意味がありません。

そんなことは頭ではわかっていても、
でも、どうしてもの思いが、
頭にこびりついて
なかなかぬぐい去れないのです。

このように、忘れようと思いながらも
ついつい考えてしまうという状況のときに、
逆説的な言い方が効力を発揮します。

例えば、
「今はクヨクヨしていてもかまわないよ」
と言ってあげるのです。

脳には、「思ってはいけない、考えてはいけない」と
意識すればするほど、
その出来事が浮かびやすくなる
という性質があります。

シロクマのことを考えるなと言うと、
逆に意識してしまうため、
ついシロクマを思い浮かべて
しまうのと一緒です。

つまり、その出来事を忘れ、
クヨクヨすることをやめたいと思っていても、
そう意識すればするほど、
事ある毎に、クヨクヨしてしまう出来事が
頭に浮かんできてしまうのです。

そうではなく、
「思い出してクヨクヨしてもいいよ」と
言ってあげると、
そんなこと忘れなくては!という
こだわりが多少なりとも緩む分、
気持ちが楽になります。

楽になった分、
他のことに意識が向けられるようになるため、
結果としてクヨクヨしていた出来事も
次第に忘れられるようになるというわけです。

このようなアプローチは
過食症の治療でもよく使っていました。

過食症の人は食べ吐きを何年もくり返し、
そんなことをしてしまう自分に
強い自己嫌悪感を抱いています。

しかし、やめようと思えば思うほど、
過食をしてしまうという状況が
果てしなく続きます。

そんな患者さんに私は、
「今は過食をやめなくてもいいよ」と
言ってあげます。

そんなことを言われると
最初はキョトンとされてしまいますが、
その理由をしっかり伝えます。

「過食はストレス発散のひとつの方法であり、
過食をしているからこそ、
ストレスの多い仕事や日常生活も
なんとかこなせているのです。
だから、過食をやめたら
どんどんストレスが溜まり、
新たな問題が起こることになるので、
今は過食はやめなくてもいいですよ」と
言ってあげるのです。

するとたいていの患者さんはホッとします。
今まで過食をやめなくてはと思っていても
なかなかやめられず、落ち込んでいたのが、
「今はやめなくてもいいんだ」と思えることで、
気持ちがとても楽になるからです。

つまり「やめなければ」という足かせが外れ、
気持ちが軽くなるのです。

過食症を治療する場合、
ここがスタートラインになるのです。
やめなくてはというこだわりが緩む分、
本来の治療に取り組めるように
なるというわけです。

逆説的な言い方は、うまく使うことで、
相手の気持ちを
とても楽にさせてあげることができます。

もちろん、全ての人に通用するわけでなく、
また、多少のコツもいりますが、
人によってはとても有効に働きます。

人の心って面白いですよね。