前回は、同じような質問をしても、
ちょっとした聞き方の違いで、
全く答が変わってしまうという話をしまた。

今回は、相手を誘導すための質問について
お話しをさせて頂きます。

以前、病棟でこんなこともありました。
ある患者さんが入院していたのですが、
脳梗塞もあり寝たきり状態ではあったものの、
病状的にはとても安定していました。

妻も長期入院になっていることに
申し訳なさを感じながらも、
一方ではできるだけこのまま入院を
続けていたいという思いもありました。

ある時、その妻がナースに対して
「そろそろ転院しなくては
いけないんですよね」とたずねました。
するとナースは、
「そうですね、病棟も混んできていますので」
と答えました。

それから数日後、
妻が転院の意向を伝えてきました。

意向を確認するため、後日、私が妻に
「ご自分で転院するって決められたんですか」
とたずねたところ、
「いいえ、本当はもっと
入院していたかったのですが、
ナースの方から、長期になったので
そろそろ転院を考えて欲しいと言われので」と
言うのです。

ナースが主治医の許可なく、
勝手に退院を促すことはないので、
おかしいなと思い、よくよく聞いてみると、
上記のようなやり取りが
あったことがわかりました。

この場合、ナースが自発的に
退院を促したわけではなく、
患者さんの質問に「そうですね」と
ただ、同意しただけのことでした。

しかし妻からすると、
その同意が、ナースから退院を促された
というように理解されてしまうのです。

このようなやりとりも
日常の中ではしばしばあります。

妻が夫の悪口を散々言い、
「夫はひどいと思いませんか?」
とたずねられたら、
受容や共感という観点から、
「そうですね」と同意せざるを得ません。

ところがその話が後日、
「先生も、夫はひどい人間だと言っていました」
という話になってしまうのです。

このように、質問者はその相手に同意を促し、
それに対して相手が同意してくれたら、
それでもう、その人が積極的に言ったという
話にすり替えられてしまうのです。

厄介なのは、それが無意識に
行われていることであり、
本人も自分にそのような意図があったことに
気づいていないということです。

言ったの言わないとといったトラブルの中には
このようなコミュニケーションによる行き違いが
結構多いのではと思われます。

一方、巧みな質問を意識的に使うことで
相手に自分の心が読み取れたと
思わせるような質問の仕方もあります。

例えば、
「あなたは、看護師ではないですよねぇ~」
と、さりげなくたずねます。
相手がたまたま、看護師であった場合は、
「看護師」という言葉がいきなり
出て来たことにびっくりし、
「えっ、なんでわかったんですか」という
反応をします。

また、看護師ではなく、
医者や薬剤師といった医療関係者だったら、
当たらずとも遠からずですので、
相手は「この人、なんか心が読めるのかも」
といった思いを抱いてくれるかもしれません。

さらに、看護師とは全く違う職業であった場合、
「はい、違います」ということになりますが、
これはある意味、看護師ではないことを
言い当てたことになります。

このような「~ではないですよねぇ」といった
否定疑問文を使って質問することで、
相手を信用させ、
さらなる巧みな質問を繰り返していくことで、
完全に相手を信用させてしまうことが可能です。

これはコールドリーディングという手法ですが、
占い師や霊媒師、予知能力者と称する人たちが、
しばしば利用しているテクニックです。

コールドリーディングには
様々な手法がありますが、
それらを巧みに使うことで、
自分しか知り得ない
過去の事実を言い当てたり、
性格や思い、考えていることなどを
詳細に語ったり、その人の未来を予知したりと、
超能力としか思えないと思わせるような現象を
起こすことができます。

そこには、うまく相手を誘導するための質問や、
巧みな言い回しを駆使して、
徐々に相手を信用させるための
テクニックが散りばめられています。

この手法を知っている人であれば、
そう易々と騙されることはありませんが、
たいていの人は、このようなテクニックが
あることすら知らないので、
上手な人にかかれば、
いとも簡単に騙されてしまいます。

このように、「質問する」ということは
皆さんが思っているほど
単純なものではないのです。

それゆえに、
たかが質問、されど質問、なのです。