私たちは日常において
何気なく会話をし、
聞きたいことがあれば質問します。

質問は、わからないことをたずねたり、
情報を収集したりするためのものだと
思われがちですが、
実際には、質問する本人も気づかないまま、
様々な意図を組み込んだ質問が
普通にされおり、
それがまた色々な誤解やトラブルの
もとにもなっています。

病棟で最もよく使われる質問は
「痛いですか?」という質問です。
患者さんが辛そうな顔をしていると、
家族は当たり前のように
「痛いの?」とたずねます。

ややもうろうとしている患者さんだと、
「うんうん」と頷くので、
家族はすぐさまスタッフステーションに来て、
「痛いって言っているんですけど」と
言いに来ます。

そんな時、たまたま私が
患者さんのもとに行くことがあります。
その際、もう一度家族の前でたずねます。
「痛くない?」
すると患者さんはこの質問にも
「うんうん」と頷きます。

つまり「痛いですか?」と聞いても
「痛くないですか?」と聞いても、
どちらも「うんうん」と返事をすることが
しばしばあるのです。

その後よくよく確認してみると、
ただ単におしっこがしたかっただけだったり、
体の位置を変えて欲しいと思っていた
だけだったりと、
痛みとは全く関係ないことで
顔を歪めていたということも
ごく普通にあります。

質問の仕方によって、
答が変わってしまうことに関しては、
シカゴ市民を対象にしたこんな研究もあります。

マーケティングの調査という名目で、
ポールペンと鉛筆を見せ、
「これらの製品はどれくらい好きですか」
とたずねると、
36.1%が好きだと答えたの対して
「これらの製品はどれくらい嫌いですか」
とたずねると、好きだと答えたのは
15.6%に減ったというのです。

このように「好きか」「嫌いか」、
「痛いか」「痛くないか」といったように
ちょっとたずね方を変えるだけで、
答が大きく異なってしまうというのが
現実なのです。

またこんなこともよくあります。
患者さんがしんどそうな顔をしているので、
ナースが「しんどいの?」とたずねると、
「しんどい」と答えます。

ナースは主治医である私に、
「患者さんがしんどいと言っています」と
しんどさを緩和する対処を求めて、
報告をしに来てくれます。

そこで再び私が患者さんのところを訪れ、
「どこか痛いの?、それとも息苦しいの?」
とたずねます。

もちろん実際には、推定される他の症状も
選択肢に入れて質問します。

すると患者さんは、
「息苦しくて、胸がしんどい」と
言ってくれるので、
ここで初めて息苦しさによる
しんどさであることがわかるのです。

「しんどい」という言葉は、
通常、身体の怠さに対して使いますが、
患者さんは、しばしば全ての苦痛症状を
「しんどい」という言葉で表現します。

そのため「しんどい」を身体の怠さという
そのままの意味で受けとめてしまうと
適切な対応ができなくなってしまうのです。

このように質問の仕方いかんにより、
答が全く異なることはしばしばあるため、
質問する際には、結構気を遣います。

もちろん、「痛いの?」といった質問のように、
自分が欲しい答を引きだすための質問を
あえてすることもありますが、
一般の人たちは、
期待する答をもらいたくて
質問しているということに、
自分自身は全く気づいていないのが普通です。

それが時にすれ違いや
トラブルのもとになるので、
質問はとても重要なのです。

たかが質問、されど質問、なのです。