薬や点滴、手術をすることで
病気がよくなると普通は考えます。

しかし、これらの治療行為には
実は心理療法としての役割があり、
それによって病気や症状が
改善しているという側面があるという事実は
まだあまり認識されていないようです。

つまり治療という行為は、患者さんに
安心感や期待感、希望をもたらし、
それが自己治癒力、つまり免疫系や自律神経系、
ホルモン系を活性化させ、
その結果として、
症状や病気が改善してしまうということが
日常の臨床ではごく当たり前に
起こっているのです。

例えば腹痛と下痢、嘔吐を繰り返し
夜間全く眠れなかったと訴え、
朝方に救急外来を受診する患者さんは
たくさんいます。

そんな患者さんの話を聞き、診察をし、
急性腸炎という病名をつけ、
「点滴をしましょう」と言って、
ベッドに横になってもらい、
1時間ほど点滴をします。

するとたいていの患者さんは、
先程までのひっきりなしのトイレ通いが
ウソのようになくなり、
すやすやと眠ってしまいます。

目が覚めたときには症状は落ち着つき、
そのまま帰宅して行きます。

点滴はほぼ水ですし、
下痢や嘔吐、腹痛を軽減する
効果などありません。
にもかかわらず症状は
改善へと向かっていきます。

また突然起こる不安感に対処するために
安定剤を持ち歩いている患者さんも
少なくありませんが、
なぜか安定剤を飲むと、ものの数分で
不安感が落ち着く患者さんも結構います。

安定剤は服用しても、
それが身体に吸収され、
薬の血中濃度が有効レベルに達するまでに
1時間ほどかかるにもかかわらず、です。

これらは、点滴や内服という、
本来はすぐさま効果が出るはずがないものでも、
患者さんに安心感をもたらすことで
症状が改善されてしまうという典型的な例です。

つまり、医者の治療的行為には
治療による効果とは別に、
安心感や期待感を引き出し、
それが自己治癒力を活性化させることにより
症状を改善するという力があるのです。
これが「心の治癒力」です。

そう考えると、医療行為とは、
患者さんの心に影響を及ぼす
心理療法そのものであると言えます。

また手術という医療行為にも
同様の効果をもたらすことが知られています。

例えば、椎体形成術と言って、
圧迫骨折によりつぶれた椎骨(背骨の骨)に
医療用セメントを注入することで
痛みを軽減するという治療法があります。

この椎体形成術の有効性については、
カルメスらが2009年に発表した
とても興味深い論文があります。

それは、世界中の11ヶ所の病院で
圧迫骨折の患者131名の登録を行い、
半数は椎体形成術を行い、
残りの半数は偽の手術をするという
臨床試験の報告です。

もちろん患者さんには研究の意図は説明され、
セメントを実際に注入される可能性は
50%であるということも伝えられています。

結果はどうだったかと言うと、
どちらの群も著しく改善していたのです!

両群とも術前の痛みのスコアは
平均すると7/10だったのが、
術後は4/10とほぼ半分になっていました。

偽の手術を受けた患者さんの中には、
術前は立つこともできなかったのに、
術後はゴルフができるように
なったという人もいました。

このように手術を受けたという事実だけで、
実際にはセメントを注入するという
本来の治療をしなくても
痛みが劇的に改善されてしまうのです。

これもまた、手術という行為が
期待感を引き出し、それが実際に
自己治癒力に影響を及ぼし、
痛みが軽減されたと考えられます。

心理療法と言うと、
言語的なやり取りを通したかかわりばかりだと
思われがちですが、
実際には、こうした治療的行為も
心理療法に十分なり得るのです。

病気や症状は治療によって
よくなっていると思われがちですが、
実際には「治療という心理療法」によって
よくなっているという側面が、
かなり含まれているということです。

皆さんはこの事実を
どれくらいご存じだったでしょうか。