患者さんと関わる場合、
よく、患者さんの思いに
寄りそうことが大切だと言われます。

もちろん、それは大切ですが、
でも一生懸命になりすぎると、
今度は治療者や援助者が疲弊してしまい、
ついには倒れたり、
バーンアウトしたりしてしまいます。

一方、ある程度の距離をとりながら
患者さんと接するようにしている限り、
自分が倒れてしまう程
疲弊することはありません。

その代わり、患者さんとの信頼関係を
構築しにくくなるという問題が生じます。
患者さんからすると、
なんか表面的にしかかかわって
もらえていない気がする、
なんか理解してもらえていない気がする
といった不満を持たれないとも限りません。

これはまさにパラドックスです。
患者さんを大切にすれば、自分がつぶれ、
自分を大切にすれば、
患者さんとのかかわりが不十分になるという、
そんなジレンマ状態が
人のケアをする世界には存在しています。

これは通常の医療現場でもよく見かけます。
例えば、とても人当たりがよく、
優しくて誠実そうな医者がいれば、
当然、噂が広がり、
患者さんがたくさん集まるようになります。

患者さんが増えるにつれ、
外来や診察に
多くの時間が割かれるようになるため、
午前の外来が終わるのが
夜になるということもあります。

そのようなことが続けば、当然医者は疲弊し、
結局、以前のように十分な時間をかけて
患者さんを診る余裕がなくなるので、
自ずと医療の質も落ちることになります。
さもなくば、いつか医者自身が
倒れることになります。

こんなことにならないためには
各々の患者さんとの「距離感」を
意識することが大切になってきます。

距離感とは、
患者さんとの心理的な距離を意味しますが、
治療者の雰囲気や性格によって、
適切な距離感というのは
人それぞれ違ってきます。

自分にとって最も適した距離感を
基本に置きつつ、
患者さんの性格や状況に応じて
ときにはもう少し近づき、
ときにはもう少し離れるというように、
自分自身をコントロールする力が
必要になってきます。

このような、適度な距離感を
常に保とうとする際に重要になってくるのが
俯瞰力(ふかんりょく)です。

よく言われる共感力というのは、
主観的感覚が大きくものを言いますが、
これが大きすぎると、
疲労困憊してつぶれてしまいかねません。

一方、距離感を保つというのは
客観的な視点が力を発揮します。
少し離れたところから、
患者さんを観察しつつ、
かかわっていくという視点ですが、
これはどうしても、
やや冷めた感があることを否めません。

この主観的な視点と客観的な視点の
よいところを兼ね備えているのが
俯瞰力だと言えます。

俯瞰力とは、少し高いところから
全体を見る目のことであり、
全体を見つつ、自分をコントロールしながら
必要に応じて共感的、主観的なかかわりも
していくことができる力です。

このような俯瞰力を持っていると、
患者さんによって距離感を
保ったり縮めたりすることができるので、
患者さんにとっても自分に取っても
ちょうどいい塩梅でかかわることができます。

共感力や主観・客観の視点が
二次元的視点だとすれば
俯瞰力とは三次元的視点と言えます。

ぜひ、この俯瞰力を身につけ、
自分にも患者さんにも優しい人を
目指してもらいたいと思います。