先日の心身医学会で
フィールド医学についての
シンポジウムがありました。

これは医療人類学と重なるところも多く、
私は以前から興味がありました。

私たちが通常、医学と呼んでいるのは
病院にくる病人を診る「病院医学」ですが、
文化が異なる場所で生活する人々の、
病気の受け止め方や病気に対する行動が
文化によってどのように異なっているのかを
実際に現地に行って、体験的に調べ研究するのが
フィールド医学です。

このシンポジウムの中で、
自民族中心主義と文化相対主義の話が
あったのですが、
これは結構面白かったです。

自民族中心主義とは文字通り、
自分が属している集団の文化が
最も正しいという前提のもと、
その判断基準に基づき
他の文化を見ていこうというものです。

外国人の社員が、定刻で帰るのを見て、
外国人は怠け者だと考えてしまうのは、
自民族中心主義に基づいた判断の
一例だと言えましょう。

また演者の一人が、
ヒマラヤの山奥に調査に行く際、
土地の人が必要だろうと思う薬を
日本から持って行っていたそうですが、
何年か行くうちに
そういうことはしなくなったと言うのです。

それは親切心でやっていると思っていた行為が、
実は典型的な自民族中心主義に基づいた行動に
なっていたことに
気づいたからだと言っていました。

この行為の根底には、
我々の医療は最高のものだから、
それを受けられない人たちに薬を提供すれば
きっと喜ぶに違いないという、
自民族中心主義の考えがあったというわけです。

一方後者の相対的文化主義は、
全ての文化は、その優劣で比べるものではなく、
それぞれがみな対等なものであり、
自分らの価値観はひとまず脇に置き、
その文化や社会の姿を、
ありのままに理解しようとする考え方です。

例えば、西洋医学の考え方と
中国医学やアーユルベーダ(インド医学)とは
全く異なる体系を持った医学ですが、
そこに優劣をつけるのではなく、
各々の独自の考え方や
文化や社会の仕組みといった、
その背景にあるものにも目を向けながら、
それぞれの医療の考え方を理解しようとするのが
相対的民族主義です。

なお、この考え方は
何も日本と海外といった文化の違いだけではなく、
西洋医学を信じる人と、
代替療法(食事療法やサプリメントなど)を
信じる人にも当てはまると思いました。

私たちは、とかく西洋医学が
最高のものだと思っています。
その一方で、アンチ西洋医学の考え方を
持っている人も少なくなく、
そのような人たちは
西洋医学的治療を受けることを拒否、
もしくはひどく嫌う傾向にあります。

このような患者さんと出くわすと、
すぐに、非科学的だとか、間違っているという
思いを持ってしまいがちですが、
それがまさに、自民族中心主義に陥った
判断なのです。

そうではなく、アンチ西洋医学や代替療法が
良いか悪いかではなく、
先ずは、その患者さんがどうして
そのようなことを信じるようになったのか、
どうして西洋医学を嫌いになったのか、
といった点も十分に聴き、理解することで、
よりよい治療ができるのではなるということです。

これはナラティブ・ベイスト・メディスン
(Narrative Based Medicine:NBM)の
考え方にも通じます。

これはエビデンス・ベイスト・メディスン
(Evidence Based Medicine:EBM)が
あまりにも科学的根拠ばかりを追い求め、
本来大切にすべき、
患者さんの価値観や経験といったものを
軽視、もしくは無視しすぎていることに
危機感を覚えた研究者たちが、,
ナラティブ・ベイスト・メディスンという考え方を
提唱し始めたものです。

これは、患者さんの語り(物語:Narrative)を
聴くことばかりが強調されている感がありますが、
実際はそうではなく、
「患者さんの病苦の物語」と
「医療者の医学という物語」を、
あくまでも対等なものとして捉え、
「対話」を通して、それらを摺り合わせ、
そこから「新しい物語」を
紡ぎ出していこうというものです。

これはまさに、
相対的民族主義の考え方が
ベースにあると思いました。

人は、つい自分が正しいと思いこみ、
その視点で相手を見るクセがありますが、
そうではなく、
相手の考えや価値観を先ずは受けとめ、
その上で、お互いの価値観を
摺り合わせていくという視点は、
医療だけではなく、
すべての分野で必要なことだと、
今回のフィールド医学の話を聞きながら、
再認識させられました。