前回は、期待感が持てたり
行動してみようと思えるような
話や説明をクライエントにすることの
大切さについて書かせて頂きました。

その際に、ふと大昔に書いた
自分の論文のことを思い出し、
久しぶりに読み返してみました。

その論文の題名は
「心療内科受診患者の症状改善に関与する
要因の検討~患者のアンケート調査から~」
(心身医学:第43巻第6号2003年)

当時、勤務していた病院には私以外に
心療内科医としての経験年数が数年という
二名の若手の女性医師がいました。

私は自分を含め、
3人が受け持っていた外来患者さんに
アンケート調査をすることで
患者さんがよくなった要因を
明らかにしようと考えました。

先週のブログにも書いたように
私はランバートの研究に大きな衝撃を受け、
実際それがどの程度本当なのかということを
明らかにしたいという思いで
この研究を始めました。

詳細は省略しますが、
アンケート調査をおこなった336名のうち
約9割が多かれ少なかれ改善しており、
不変と悪化はそれぞれ約5%程度でした。

この結果は私と若手医師の間では
大きな差はありませんでした。
正直言って、これはショックでした。

数年目の心療内科医と
10年以上、心理療法を駆使して
バリバリ治療してきた私との間に
患者さんがよくなるか否かの差が
ほとんどないなんて、一体どういうこと?と、
愕然としたのを今でも覚えています。

ショックなことはさらに続きます。
各々の患者さんの治療要因を調べたのですが、
これはアンケート用紙に
以下のような項目を列挙し、
その中で当てはまるものを
三つまで○印をつけてもらうという形で
行いました。

「主治医に対する安心感や信頼感」
「具体的な話や説明」「ちょっとした言葉」
「治療への期待感」「希望」
「薬」
「たまたまの出来事」「なんとなく」
「その他」

ランバートの研究論文をかなり意識して
アンケート項目を作ったのですが、
厳密性には欠けます。

この中で症状の改善に
最も大きく関与した要因が
「主治医に対する安心感や信頼感」で、
私も若手医師もともに約25%でした。

この結果を見て思ったことは
患者さんに安心感や信頼感を持ってもらうのに
医者の年齢や知識、経験、技術は
あまり関係ないんだなということでした。

次に多かったのが「具体的な話や説明」であり
これが約20%でした。
これも私と彼女らの間に差はありませんでした。

あとの項目については多少の差がありました。
先ず私ですが、
「ちょっとした言葉」14%
「希望」11%、「薬」9%でしたが、
若手医師二人の場合は
「薬」14%、「希望」11%、
「ちょっとした言葉」11%でした。

当時の私は、心理療法のテクニックで
症状を治しているという意識が強かったのですが、
このデータを見る限り、私と若手医師との間で、
統計的に明らかな差があったのは
「薬」の項目だけであり、
それもたったの5%だけでした。

私は若手医師よりも薬ではなく
心理療法で治すという意識が強かった分、
このような結果になったのだと思いますが、
それにしても全体からすればほんの僅かな差です。

このデータを見る限り、
心理療法のテクニックが、
患者さんの症状を改善させているという
私の「思い込み」は完全に打ち砕かれました。

しかし今この論文を読み返してみて感じたことは、
「安心感や信頼感」が
大切なことはもちろんですが、
「具体的な話や説明」も実は
かなり重要なんだということを
改めて感じた次第でした。

私は当時から心理療法の一環として
具体的な話や説明をよくしていました。
それは単なる説明ではなく、
あくまでも安心感や信頼感、納得感を、
さらには期待感や希望、可能性を
持ってもらうためのものでした。

そう言えば、来談者中心療法の提唱者である
カール・ロジャースの面接テープを分析したところ、
実はクライエントよりのロジャースの方が
しゃべっていたという話があります。

傾聴や受容、共感の印象が強いロジャースですが、
実は彼も安心感や信頼感、期待感を引きだすために
クライエントに色々な話や説明を
していたのではないでしょうか。

今回の振り返りを通して
どんな治療法やアプローチであれ、
セラピストとクライエントとのかかわりの中で
いかにして安心感や信頼感、
期待感や希望、可能性、
さらには小さな行動を引きだすような
話や説明が重要なのかということを
再認識させられた次第でした。