先日、東京で開催された
サイコオンコロジー学会に参加してきました。
その中で特に面白かった慢性疼痛の話しについて
かいつまんで報告させて頂きます。

発表したのは関西医大心療内科の
水野泰行先生でした。
彼は私の後輩であり、
よく一緒に酒を飲みながら
ディスカッションをした仲間の一人です。

私が知っている限り、
今の関西医大心療内科で
最も心理療法が上手な先生だと思います。
特に慢性疼痛は彼の専門でもあり、
臨床経験の深さがにじみた
傑出した発表だったと思いました。
彼の話は以下のようなものでした。

痛みは、心理的な要因が
かなり強く関与する症状の一つです。

国際疼痛学会でも
「痛みは常に主観的なものであり、
すべての痛みは心理的な要因の修飾を受ける」と
注釈が添えられているところかもわかるように、
どんなはっきりした
身体的な痛みの原因があったとしても、
そこには必ず心理的な影響が
関与しているということです。

急性の痛みは鎮痛剤で対応できますが、
慢性疼痛はそう単純ではありません。
もしも患者さんが痛みを受け入れ、
痛みがあっても大丈夫、
痛みがあっても動くということを続けていると、
自ずと痛みは軽減していきます。

しかしたいていの人はその逆で、
いつも痛みに意識が向いてしまい、
また、できるだけ動かないようしようとするため、
より痛みを強く感じるようになるという
悪循環に陥ることになります。

慢性疼痛への対処法には
疾病志向型対処と健康志向型対処があり、
前者は安静や行動制限、
誰かに援助を依頼してやってもらったり、
無効な薬を飲み続けるという行為で
痛みに対応するという方法です。

一方の健康志向型対処というのは
痛みがありながらも
運動をしたり、作業を継続したり、
また誰かにやってもらうというサポートではなく、
心を支えてもらうようなかかわりを
してもらうという対処法です。

このようなことを知っている医者は、
慢性疼痛の持続要因をできるだけ排除し、
よくなるための健康志向型対処を取り入れながら
治療をしていくわけです。

この慢性疼痛は緩和ケアの患者さんも
実は例外ではありません。

通常のがん性疼痛には、
モルヒネなどの医療用麻薬を使うことで、
痛みを取ることは十分可能なのですが、
中には麻薬を増やしてもあまり痛みが変わらない、
安心や予防のために薬を頻回に希望する、
といった患者さんが少なからずいます。

このような患者さんは本来のがん性疼痛に
慢性疼痛も重なっている可能性があり、
今、緩和ケアの分野でも問題になっています。

痛みは我慢しない、
痛ければ積極的に薬を使うというのが
緩和ケアでは基本中の基本ですが、
慢性疼痛になっている患者さんにとっては
それがかえって痛みを悪化させている
可能性があるというわけです。

私も以前は心療内科医として、心理療法を中心に
慢性疼痛の治療をしてきた経験があるので、
水野先生の話はよく理解できました。

同時に、緩和ケアでの痛みへの対応の物足りなさを
痛感せずにはいられませんでした。
なぜならば、緩和ケア医は
患者さんの心に寄り添うことはできても、
心理療法の考え方やスキルを使って
痛みなどの症状を治療するという経験が
ほとんどないため、結局は薬物に
頼らざるを得ないというのが現状です。

ですから、水野先生のように
日々の臨床で慢性疼痛の患者さんに
心理療法的なかかわりをしている医者と、
抗うつ剤などで心のケアをしようとしている
通常の緩和ケア医とでは
慢性疼痛への対応は
雲泥の差を感じざるを得ません。

でも、今回の水野先生の話を聴いて、
私もちょっとやってみようという気になりました。
私の病棟にも、いわゆるがん性疼痛と
慢性疼痛が混ざった患者さんが何人かいます。

そのような患者さんに対しては、
もう少し心理療法的なアプローチを
意識したかかわりをすることが
とても重要だということを再認識させられたので、
帰ったら、早速取り組んでみたいと思います。

水野先生、
とても刺激的で有意義な講演を
本当にありがとうございました。