ブログ:医療における返報性の原理

前回は返報性の原理について
お話しをしました。
今回は、その医療編です

医療の分野においても、
当然、返報性の原理は働いています。

例えば、患者さんを
リラックスさせることができる医療者は
それだけで患者さんに感謝の念を生じさせるため
医療者がアドバイスをした際、
より受け入れてくれることが多くなることが
様々な研究で知られています。

つまり、この人はいい人だ、信頼できると
思ってもらえるような関わりをすれば、
患者さんはその人の言うことを
素直に聞き入れてくれることが
多くなるということです。

言ってしまえば、当たり前すぎる程
当たり前なことですよね。

特に医者の場合はどうしても
どこか偉そうなイメージがあるため、
そんな医者が、自分に対して
優しく誠実に接してくれたならば、
私もこの医者の言うことは
全面的に信頼して受け入れよう、と、
そんな気持ちになってしまうのも
ごく自然なことかもしれません。
これがまさに返報性の原理です。

普段の医療現場では
返報性の原理の威力を
さほど感じることはありませんが、
これが力を発揮するのは
何と言っても厄介な患者さんと
かかわらないといけない場合です。

私も今まで多くの厄介な患者さん、
つまりモンスターペイシェントに
かかわってきました。

暴言を吐き、看護師にマッサージを強要し
ナースコールも1日に100回という患者さんや
ナースとのちょっとした行き違いで激怒し、
警察に訴えると言って
すぐに電話をかけてしまう患者さん、
一人でいるのが寂しいから傍にいてくれと、
夜中に何時間もナースをつかまえ
帰してくれない患者さんなど、
いろいろいました。

当然、普通の対応をしても埒が明きません。
そんなときに威力を発揮するのが
この返報性の原理を使ったかかわりです。

最初に、その患者さんの話を十分に聴き、
文句や不満、言い分に耳を傾け
十分な時間をかけて先ずは受けとめます。

そんなことを繰り返すうちに
次第にその患者さんの態度が変わってきます。
この医者は、俺のことをわかってくれるやつだ、
と思わせるのです。

そのような関係性を作った上で
今度はこちらの話しや提案をします。
そうすると、思いの他、それを受け入れてくれ、
最終的にはトラブルは落ち着き、
平和な病棟が戻ってくるというわけです。

厄介な患者さんほど、
人から受け入れてもらったという経験がないため、
先ずこちらが受け入れてあげると、
それに恩義を感じて、
今度はこちらの話しも
受け入れてくれるようになるというわけです。

またこんなケースもありました。
胃カメラで胃がんが見つかり
医者から手術を勧められたのですが、
手術は受けたくない、
このサプリメントで治すんだと言って、
頑なに手術を拒否する患者さんがいました。

胃がんが見つかってから1ヶ月後、
家族がやっとの思いで私のところに
その患者さんを連れてきました。

彼は「このサプリメントを飲み続けたら
胃がんは治る気がする。
実際、今は胃の痛みがなくなった」と言うのです。

そこで私は、
「ではどれくらい飲んだらよくなると思いますか」
とたずねたところ、
しばらく考えた後「3ヶ月くらいかな」と答えました。

「いま1ヶ月経ったから、あと二ヶ月ですね。
ならばそれまで待ちましょう。
そのときにもう一度検査を受けて頂き、
その結果で今後どうするかを決めましょう」
と言いました。

その患者さんは、満足した表情で帰り、
約束通り、その二ヶ月後に
再び検査を受けてくれました。
結果は、胃がんはさらに進行していました。

カメラの写真を見せながら結果を説明し、
「サプリメントでは治すのは難しそうですね。
また一度手術を考えてみてはいかがでしょうか」
と言って、もう一度考えてもらうことにしました。

その数日後、その患者さんは手術を決意し
後日手術を受けてくれました。

これなども返報性の原理を使った
典型的なかかわりです。
医者はなかなか納得しない患者さんを
脅したりしながら
無理矢理に説得しようとする傾向があります。

これではうまくいかないどころか、
二度とその医者のところには来なくなるため、
病気によっては
患者さんの命を脅かすことにもなりかねません。

医療現場では、医療者と患者さんの間に
様々な問題が生じます。
だからこそ、この返報性の原理を理解し、
一人でも多くの医療者が、患者さんとのかかわりを
よりよいものにして頂けることを願ってやみません。

皆さんもそう思いませんか。

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