ストレスと言うとみんな
悪いものだと思われがちですが、
実際はそうとも限りません。

例えば嫌なことを我慢しながら続けるとか、
嫌いな人と一緒に仕事をするとか、
そういう状態にずっといるとしたならば
それは文字通り悪い意味でのストレスでしょう。

一方で、子供が病気になったとか
愛する夫が倒れたとかいう状態のときは
どうでしょう。

これも明らかにストレスになりますが、
そのようなときに人は、
自分が頑張らなくてはという思いが出てきて
子供や主人のために
一生懸命尽くしたいという
思いになるのが一般的です。
これが「思いやり・絆反応」です。

この「思いやり・絆反応」が起こると、
体からはオキシトシンというホルモンが
分泌されます。
すると人とのつながりを求める気持ちが強くなり、
相手の役に立ちたいという思いも強まります。
さらに、脳の恐怖反応を鈍らせ、
勇気ももたらしてくれます。

またオキシトシンには
心臓細胞の再生や微小損傷の修復にも
役立つことが知られています。
ストレスは心臓に悪いと言われていますが、
「思いやり・絆反応」が生じた場合には
逆に心臓を強化してくれるのです。

先日、夫が末期がんだと告知され
夫と同様、自分もショックを受けたという
患者さんが来院されました。

夫が末期がんになったというのは
彼女にとっては紛れもない大きなストレスですが、
それにより「思いやり・絆反応」を引き出され、
夫のためにできるだけのことを
してあげたいという思いになっていました。

私は彼女に言いました。
「今はすごく大変だと思いますが、
このストレス状態は必ずしも自分にとって
マイナスになるとは限りませんよ」
そう言って
「思いやり・絆反応」の話しをしてあげました。

実は彼女自身もがんを患い、
少なからずストレスを抱えていました。
そんなときに夫の末期がんの宣告ですから、
まさに弱り目に祟り目です。

夫のことも心配ですが、
その一方で今回のことがさらなるストレスとなり
自分のがんまで悪化してしまったらどうしようと、
そのことも心配してたのです。

しかし実際には、夫が末期がんになったことを知り
それにより「思いやり・絆反応」が生じ、
オキシトシンの分泌が促され、
自分が頑張らなくてはという思いやりの気持ちが
強くなったわけです。
そうであれば、今の状態は
必ずしも心や体に悪いとは言えません。

そんなことを彼女に話してあげたら
すごくホッとした表情になり、
笑顔で診察室をあとにしてくれました。

もちろんこれから先、
不安なことは尽きないでしょう。
でもストレス=悪と思っている人には、
このようなことを教えてあげることで
不安な表情を笑顔にさせてあげられるのですから
悪いことではありません。

この患者さんを通して、あらためて、
思い込みを緩める話しをしてあげることも
大切だなと思った次第でした。