医学の世界では、
「科学的根拠に基づいた医療」
(Evidence Based Medicine:EBM)
という言葉がよく使われます。

ここで言う「科学的根拠」とは
どのようなことを意味しているのか、
簡単に説明させて頂きます。

例えばAという薬が
効くのか効かないのかを判断する場合、
400人くらいの人にその薬を飲んでもらい
その効果を確かめます。

その際、200人には
実際のA薬を飲んでもらいますが、
残りの200人には見た目は同じでも
全く効果のないもの(プラシーボ)を
飲んでもらいます。

実際には薬効のないプラシーボを飲んでも
安心感や期待感といった心の働きにより、
効果が出てしまうことがごく普通にあります。

だからこそ、プラシーボと比較して
A薬がプラシーボよりも
効果があることを証明しない限り、
A薬が本当に有効性があるとは言えないのです。

このとき、A薬とプラシーボの効果を比較する際
データの統計処理を必ず行います。
その結果、両者の効果に
差があることが証明されれば
はじめて、A薬には有効性があると
認められるわけです。

よくパンフレットのグラフなどに
「p<0.05」といった記載があるのですが、
これは統計処理をした結果、
二つのデータには明らかな差(有意差)が
あったということを意味しています。

このp<0.05とはどういう意味かというと、
両者にこのような差が偶然に現れる確率は
0.05つまり5%未満だということを
表しています。

言い換えると、
このような比較試験をした場合、
本当はA薬とプラシーボには
効果の差がないにもかかわらず、
A薬の方が効果があるという結果が
偶然出てしまうことは
20回に1回もありませんということです。

研究の対象は感情や心を持った人なので、
その人の性格や体質、
その日の気分や調子の良し悪しにより
データに多少のばらつきが出るのは当然です。

プラシーボを飲んでも、
「効いた」と感じてしまう人もいれば、
効果のある薬を飲んでも
「あまり効かない」と感じてしまう人も
いるわけです。

だからこそ、
個人個人の様々な条件による
偶然性を少なくするために
このような統計処理を行うわけです。

これで有効性が証明されてはじめて、
このデータには科学的根拠があるという
お墨付きがもらえるわけです。

そのため、もし得られたデータが
p=0.05(5%)よりも少しで値が高かった場合、
例えばp=0.051だったならば、
A薬とプラシーボには有意差がないと判断され、
A薬の有効性は証明できなかったことになります。

逆にp=0.049であったならば、
p<0.05ですから、堂々と胸を張って
有意差あり!と言えるし、
A薬の有効性が
科学的根拠をもって証明されたことになります。

このほんの僅かな数字の違いで
有効性が証明されたり
否定されたりするわけですから、
p=0.05という数字は医療の世界では、
とても重要な基準値になっているわけです。

論文を書いたり研究発表をする人は
この数字を出すのに躍起になり、
データの結果に一喜一憂するわけです。

そのため、何とかp<0.05という数字を出すために
時には不正やデータの改ざんという
悪質なことも行われてしまうわけです。

では、この統計処理の基準となっている
「p<0.05」という数字は
どこから出てきたのでしょうか。

実は、そこには何の根拠もありません。
医療の世界における単なる習慣です。
だから、5%ではなく4%でも1%でも10%でも
実は、何でもよかったのです。

でも10回に1回程度なら
偶然起きてしまうようなこともある薬に対して
科学的根拠あり!と認めるのは
ちょっと甘すぎるし、
30回に1回や、ましては100回に1回となると
ちょっと厳しすぎて、
有効性が証明できる薬が
ほとんどなくなってしまうという懸念があるので、
まあ、20回に1回くらいが妥当じゃない、
といった感じで決められた数字なのです。

つまり、科学的根拠の拠としている
根本的基準値であるp<0.05という数字には
なんら科学的根拠がないというわけです。

「科学的根拠がある」ということを
まるで錦の御旗を掲げるように
言い張る人を見るたびに、
科学的根拠にはなんら科学的根拠がないのにあな、
と、いつも思ってしまう私でした。