先日、国立がん研究センター中央病院の
内富庸介先生のコミュニケーションに関する
講演を聴く機会がありました。
その中でとても印象に残ったのは、
「がん患者さんとのコミュニケーションは
非日常の世界だ」という話でした。

考えてみれば当たり前なことなのですが、
私からすると「非日常」という言葉に、
目から鱗が落ちる思いでした。

内富先生は、がんの告知をはじめ、
再発や治療の中止といったバッドニュースを
日本人医師ががん患者さんに対して
どのようにしたらうまく伝えられるか
といったことを研究されている先生です。

簡単に言ってしまえば
コミュニケーションスキルの研究者です。
その際、絶対に必要で重要なスキルのひとつが
患者さんの話をしっかり聴くということです。

カウンセリングの世界では当たり前すぎて
今さらかと呆れられるかも知れませんが、
多忙な医者にとってこれを実践するのは
なかなかの難題なのです。

内富先生が言っていたのは、
医者は忙しいため、
すべての患者さんの話を
じっくりと聴く必要はないが、
がん告知やバッドニュースを伝える際には
是非、患者さんの話に
じっくりと耳を傾けて欲しいと
ということでした。

この話をしているとき内富先生は
これは日常の世界ではなく、
非日常の世界なのです、と言っていたのです。

つまり、じっくり相手の話を聴き、
相手の置かれた立場に思いを巡らせながら、
話を聴くという状況は、
日常ではあり得ない非日常の体験であり、
だからこそ、そのときだけは
これは非日常だと割り切って
がん患者さんの話しをしっかり聴くことに
努めてほしいということを
言いたかったのだと思います。

最初は、非日常だなんて
ちょっと言い過ぎじゃない?と
思っていたのですが、
考えてみたら、私も患者さんと話をしているときと
日常の会話とは当然ちがうなと思いました。

日常での会話では、気持ちが赴くままに
冗談を言ったり、下ネタで笑ったり、
その一方で、
話をしたくない人とは敢えて話はしませんし、
ときには不快な表情をしたり、
怒ったりすることあります。

しかし患者さんとの会話やカウンセリングでは
自然さを装いながらも、
やはり傾聴することに努めますし、
相手の立場に立っていろいろ考えたりもしますし、
当然、怒ったりするようなことはありません。

自分では、このようなかかわりは
特に意識してしているわけではなく、
相手が患者さんやクライエントの場合は、
自然とそうなってしまいます。

つまり、仕事を通してのかかわりというのは
すべて非日常の世界なのです。
営業や接待でのかかわり方を
家や友達にもやっていたらそれはおかしいし、
第一からだも気持ちも持ちません。

そうであれば、
患者さんとのコミュニケーションは
非日常の世界での出来事なので、
多少不快なことや、辛いことがあっても
その場だけ何とか乗り越えたら、
あとはまた日常の世界に戻れるので、
もう少しだけ頑張ろうとか、
その間だけでも我慢しようと思えるわけです。

そう考えると、職場と家とでは
口調や態度が全く異なるのも納得がいきます。
家庭での家族とのかかわりは日常なのですが、
職場でのかかわりは非日常なのです。

日常的なかかわりを職場にも持ち込むと
フレンドリーでよいかもしれませんが、
一方で何かと感情的になったり、
自分勝手な振る舞いになりがちです。

逆に家庭で非日常的なかかわりを持ち込むと、
それこそ、くつろいで過ごす時間がなくなり、
いつも気を遣いながら
生活をしなければならなくなります。

家でも職場でも、
もしかしたら日常性と非日常性の両者のバランスが
大切なのかも知れませんね。

そんなことを考えならが
今回の内富先生の講演を聴いていました。