カウンセリングにおいて、
クライエントとの信頼関係を築くことが
必要不可欠であることは
今さら言うまでもないことです。

その際最も基本的で、
最も大切になってくるのが傾聴ですが、
この傾聴がときに、
クライエントに害をもたらすと言ったら
皆さんは驚かれるのではないでしょうか。

例えば、クライエントが
いかに自分は不幸なのか
いかに自分は惨めなのか、
いかに自分はみんなから認めてもらえないのか
いかに自分は家族に恵まれていないのか、
といったことを延々と話し続けたとしたら
どうでしょうか?

教科書的には、クライエントの辛さに寄り添い、
しっかりと傾聴することが大切だと
書いてあるのでしょうが、
私はそうは思いません。

それはなぜか。
人はネガティブな話をする時
いかに自分が辛い思いをしているのかを
わかって欲しいと思っています。
それは悪いことではありませんし、
ある程度傾聴してあげる必要もあります。

しかしその思いをいくら聴いても、
ネガティブな話にはきりがありません。
それどころか、話せば話すほど、
辛かった話はとめどもなく出てきますし、
遠い過去の忘れかけていた悲しい出来事まで
思い出したりすることになります。

その結果、
ほらやっぱり自分は惨めで不幸な人間なんだと
クライエントは確信を強めることになります。
つまり話を聴けば聴くほど、
その人のネガティブな思いを
より強化してしまうことになるのです。

ですから、このように延々と続くネガティブな話は
ある程度聴いてあげたら、
あとはどこかで切り上げる必要があるのです。

ただし、ポジティブな面に目を向けてもらおうと
「あなただって楽しかったことや嬉しかったことが
あったんじゃないですか」などとたずねても、
うまくいかないどころか返って逆効果です。

本人からすれば、自分は不幸な人間であり、
楽しかったことや嬉しかったことなど
ひとつもないと思っているのに、
それを「楽しかったこともあったはず」と
セラピストに言われてしまうと、
このセラピストは何もわかってくれていない、
という思いになってしまうからです。
これで一気に信頼関係は崩れます。

ではどのようにしたら延々と続くネガティブな話を
うまく切り上げることができるのでしょうか。
それは次のような質問をすればよいのです。

「そんな辛い状況の中、今までどうやって
がんばってくることができたんですか」

こうたずねればよいのです。
この質問には、いくつかのメッセージが
隠されています。

まず、クライエントが
辛い状況の中にいることを認めています。
この言葉は重要です。

にもかかわらず、今までなんとかここまで
がんばり続けてきたことも認めています。
ここも重要です。

さらに、「何か」があったからこそ
今までがんばってこられたのだと思うのですが、
そのことに私は大変興味があるので、
その秘訣をぜひ教えてもらえませんか、
といったメッセージが
この質問には込められているのです。

そのため、このように質問されると、
クライエントは何の抵抗も感じることなく、
「なんでがんばれたんだろう」と、
無意識にしまい込まれていた「がんばりのコツ」に
思いを馳せ巡らせることになります。

すると、例えば
「介護の仕事で、一人暮らしの
おじいちゃんのお世話をしているんですが、
その人がいつも私に『ありがとう』と
言ってくれるんです。
その言葉を聞くと、こんな自分でも
多少は役に立つこともあるんだと思って、
ちょっとはがんばる気になるんです」とか、
「2歳の娘がいるんですが、
その子の寝顔を見ていると、
この子のためにも死んじゃダメだって思うんです」
といった言葉が返ってきます。

このような質問をすることで
「がんばれてきたこと」に
自ずと目が向けられるので、
今までのネガティブサイクルの話から、
自然と抜け出すことができるというわけです。

もちろん一回の質問だけで、
すべてがうまくいくというわけではないのですが、
必要に応じてこの質問を入れていくことにより、
少なくともナガティブな話だけに
終始するようなことはなくなりますし、
話の展開によっては、
そこから希望や可能性を引きだすこともできます。

たったこれだけの質問ですが、
効果は抜群です。
ぜひ皆さんも試してみて下さい。