今年の私のテーマはチャレンジです。
大それたことに挑戦するという意味ではなく、
今までとはちょっと異なることを
してみようということです。

外でいつもとは異なる食事をしたり、
違った道を通って帰るとか、
そんな些細な事です。

そんな意識があったせいか、
先週あった講演では
いつもと違った試みを意識的にしてみました。

やり慣れた講演の準備は、
通常、当日本番前に2時間くらいかけて、
その日の構成や話す内容を考えるのですが、
今回はチャレンジ精神を意識したせいか、
数日前から、その日の
講演の流れや内容を考えていました。

当然のことながら、
じっくりと考える時間があるので、
自分なりに色々と
思いを巡らせることができ、
そうすると、思いがけないアイデアが
ふと湧き上がってきたりするのです。

やはりいつもと異なる話をしようと意識すると
今までにない閃きやアイデアが浮かぶものです。
そんなわけで、今回は
ちょっと面白い話ができました。

そんなことを考えていると、
20年前のあることを思い出してしまいました。
それは私の心療内科時代のことです。

私はもともと薬で治すという発想が嫌いで、
極力薬を使わず、
コミュニケーション(心理療法)により
患者さんが持っている心の治癒力を
うまく引きだすというアプローチで
治療をしていました。

日々、様々な考え方やアイデアを駆使しながら
患者さんの治療をしており、
それがすごく楽しかったのですが、
そんな折りにたまたま本を書く機会が訪れました。

それが私が39歳のときに初めて書いた
「人は自分を癒す力を持っている」
(ダイヤモンド社)という本でした。
今では絶版になっていますが、
それに新たな一章を付け加えて出版した
「心の治癒力をうまく引きだす」(築地書館)は
今でも売れ続け、再版を重ねています。

私はこの本を書くまでは、
自分がやっていることを
はっきりと言語化したことがなく、
自分でもどのような考え方で
治療をしているのかを
漠然としか認識していませんでした。

ところが、本を書くという作業を通して、
自分はこんなふうに考え、
こんなことをしていたんだということが
明確に理解できたのです。

ところがです!
本を書いてから、
治療が本当に下手になってしまったのです。

どういうことかと言うと、
今までは、患者さんの話を聴きながら、
どのような切り口でどのようにアプローチし、
どんなことをするかは、
その都度考え、柔軟に対応していたのです。
そのため、その患者さんに最もあったかかわりが
できていたのだと思います。

ところが本を書くことにより、
自分の考えややっていることが明確になり、
その結果、患者さんの話を少し聴いただけで、
治療パターンが見えるようになってしまったのです。
ですから、この患者さんには何をすべきかが、
すぐにわかるようになってしまったのです。

そんな関わりをするようになってから、
今まであれだけ、患者さんがよくなっていたのに、
うまくいっているという感触が
全く持てなくなってしまったのです。

1年ほど、なぜこんなに治療が
下手になってしまったのだろうかと悩みましたが、
ある時ふと気づいたのです。
患者さんの話を少し聴いただけで、
すぐさまパターンに当てはめ、
その流れで治療をしてしまっていたということに。
いわゆる治療のマニュアル化です。

それまでは一人ひとり、
それぞれに対応していくという姿勢で
かかわっていたのですが、
本を書き、自分のやっていることのパターンが
見えてしまったことにより、
今まで大切にしていた、
目の前の患者さんに寄り添い、
柔軟性や個別性を大切にしながら
かかわるという姿勢が失われ、
知らず知らずのうちに、
こちらの持っているパターンに
当てはめるという姿勢に
なってしまっていたのです。

そのことに気づいてからは、
すぐさま思いついてしまう
パターン化されたアプローチを敢えて使わずに、
それ以外の方法で対応するようにしました。

すると少しずつ、以前の柔軟性がもどり、
しばらくすると、またそれなりに
うまくできるようになったという感触が
戻ってきました。

人は、パターン化されたり
マニュアル化されたものの方が使いやすく、
便利に思うかもしれませんが、
その一方で、柔軟性に欠け、
本質を見失うという危険性もはらんでします

その意味で、今年のテーマであるチャレンジ、
つまり、いつもと違うことをするというのは、
パターン化された思考や行動から
柔軟性や新たな気づきをもたらす
よい視点だと再認識した次第です。

皆さんも、チャレンジ、してみませんか。