先日、神戸で関西緩和医療研修会が開催され、
そこで私も10年ぶり?くらいに
一般演題の発表をしてきました。

末期がんの患者さんの痛みのコントロールは
緩和ケアでは基本中の基本ですが、
ときに、それにとても難渋することがあります。

今回発表させてもらったのは、
前病院で大量のオピオイド(医療用麻薬)や
鎮痛剤を使用していたにもかかわらず、
全く痛みがとれず、
そのため、1日20回以上の
さらなるオピオイドの注射が必要だった
患者さんの症例でした。

転院後、私が主治医として診ていたのですが、
最終的にはオピオイドの量も5分の1以下に減り、
本人もずいぶんと楽になったと喜んでいました。

ここで私が一番言いたかったことは、
痛みは鎮痛剤だけでコントロールするのではなく、
患者さんとの関わりやコミュニケーションを通して
安心感や信頼感、納得感を引きだすことが、
いかに重要なのかということでした。

一般的に、痛みをはじめとする様々な身体症状は、
心の状態に大きく左右されることが知られています。
例えば不安やストレスが貯まると、
痛みなどの症状は強くなり、薬も効きにくくなり、
逆に安心感や期待感といった心の状態は
症状を軽減するように働きます。

しかし、緩和ケアでもそうですが、
今の医療における疼痛コントロールは、
どのような薬をいかに上手に使うか、
ということばかりに目が向き、
心へのアプローチがいかに身体症状の軽減に
大きな役割を果たしているのかという事実は
あまり自覚されていないように思われます。

私のように、心療内科医として
薬ではなく心理療法を中心として
治療をしてきた人間からすると、
患者さんの「心の治癒力」をうまく引きだすような
関わりやコミュニケーションが
身体症状の緩和には必要不可欠であることは
言うまでもないことなのですが、
一般の緩和ケアに携わっている
医者やナースにはそのような認識は
あまりないように感じています。

今回発表させてもらった患者さんも、
前医とのかかわりはあまりよくなく、
不安感や怒りの感情が強く、
そのため鎮痛剤の量も
桁違いに多くなってしまったのではないかと
推察しています。

しかし転院後は、
頻繁に患者さんとコミュニケーションをとり、
またナースも迅速に対応してくれたこともあり、
不安や怒りの感情も次第に薄れ、
その結果として、鎮痛剤の使用量も
激減したのではないかと考えています。

緩和ケアの分野では、
急性期病棟などに比べると、
はるかに患者さんとのコミュニケーションや
心のケアに力を入れていますが、
こと身体症状の緩和となると、
どうしても薬物療法で
何とかしようとする傾向があることは否めません。

心のケアも重要ですが、
それが身体症状の緩和にも役立つことを
もっと多くの緩和ケア医に自覚してもらい、
薬物療法の勉強に勝るとも劣らず、
治療のためのコミュニケーションスキルの勉強にも
力を注いでもらいたいと思っている次第です。