たいていの病院では、患者さんや家族から
金品を受けることを禁じています。
もちろん、そのような行為は不要であり、
病院にも受け取りを遠慮する旨を
掲示してあります。

私も当然だと思っていますし、原則として断っています。
ただし、ひとつだけ例外があります。

患者さんが亡くなってしばらくして、
無事お葬式も済みましたと
お礼に来られたさいに
菓子箱を持ってくるケースです。

当然、一度はお断りするのですが、
たいていの場合は、いやいやと言って、
無理に置いていこうとします。
そのとき私は
「それではお言葉に甘えて」と言って、
受け取るようにしています。

当然、病院では例外なく
このような品物を受け取ることは禁じています。
その意味では明らかにルール違反です。

しかし患者さんが治療中の場合と、
亡くなったあとの場合とでは
その意味合いが違うと思うのです。

前者の場合であれば、
多少なりとも医療者側に何かしらの配慮を
期待している場合もあるでしょう。

しかし後者の場合は、
お世話になったことへの
純粋な感謝の気持ちの表れであり、
そこには下心など全くありません。

事実、治療中の患者さんはコソコソと
金品を渡そうとしますが、
葬儀を終えお礼にきた家族は
堂々と菓子箱を渡そうとします。
そこには何ら後ろめたいところが
ないからに他なりません。

そうであれば、その気持ちを
ありがたく受けとめることが、
家族の感謝の思いに報いるためにも
必要なのではないでしょうか。

逆に、菓子箱を受け取らないというのは、
せっかくの家族の感謝の気持ちを
踏みにじることにもなりかねません。

実際、以前、とても生真面目なナースがおり、  
その人は菓子箱を断固として受け取らなかったため、
結局最後は、その家族を憤慨させてしまいました。

治療中の患者やその家族が持ってきた金品を
医療スタッフが受け取ることは、
患者さんに余計な気遣いをさせてしまうとか、
他の患者さんとの公平性が失われるとか、
色々問題はあるかもしれませんが、
亡くなった患者さんの家族が持ってきた菓子箱を
受け取ったからと言って、
一体、何が問題になると言うのでしょうか。

もうすでに患者さんはいませんし、
家族の利益になることも何もありません。
そこにはただ、感謝の気持ちが伝えたいという、
その思いがあるだけです。

もちろん、挨拶だけで十分であり、
菓子箱など本来は不要ですが、
わざわざ持って来て下さったのであれば
それを敢えて断る理由もありません。

そうであれば、
その思いを素直に受けとめてあげるのも
医療スタッフの最後の勤めとして
大切なことなのではないかと思うのです。

物事にはルールは必要ですが、
何のためのルールなのかを
しっかりと把握しておかないと、
菓子箱を受け取るという行為の是非ばかりに
目が向いてしまい
何が大切なことなのかという本質が見えなくなり、
誤った判断をしてしまいかねません。

どんなルールにも例外があります。
あまりに杓子定規に考え過ぎたり、
マニュアルを守ることにこだわり過ぎると、
本質を見失い、本末転倒になりかねません。

この菓子箱問題は、
私にそんなことを考えさせる
よい機会になりました。