プラシーボとは薬効成分の入っていない
偽薬のことです。
つまり、痛め止めとして、
乳糖やデンプンの粉を使う場合、
これはプラシーボになります。

プラシーボには薬効成分が
入っていないのですから、
普通に考えると効くわけがないと思われますが、
実際には30~60%の人に効きます。
これがいわゆるプラシーボ反応(効果)です。

なぜ効くのかについては、
まだあまり詳細はわかっていませんが、
安心感や期待感といった心の状態が
体の治癒力(自然治癒力)を刺激し、
それで症状が改善すると考えられています。

では、これはプラシーボですと言って
投与したらどうなるでしょうか。
つまり「この薬は薬効成分が全く入っていない
プラシーボです。ただし自然治癒力を引きだし、
効果をもたらす可能性はあります」と説明して、
患者に投与するわけです。
実は、これでも十分に効果を認めるのです。

実際、プラシーボ投与群と無治療群との比較では、
プラシーボ群の方が著しい回復を見せます。
例えば、偏頭痛の臨床試験では、
合計450回以上の発作に対して、
プラシーボと知りつつ飲んだ場合は、
何も飲まなかった場合と比較して
痛みが30%軽くなったという結果が出ています。

つまり、プラシーボとわかって服用しても
それなりの効果があると言うことです。
一般に、サイズが小さいより大きい方が、
1回分が1錠より2錠の方が、
白よりも色つきの錠剤の方が
効く傾向にあることもわかっています。

このように、プラシーボだとわかっていても、
飲むという「儀式」を通して、
症状の軽減をもたらすことができるのです。
なぜ効くのかはまだわかっていませんが、
私は以下のように考えています。

「プラシーボなんて効くわけない」と、
頭では認識していたとしても、
飲むという行為により、
「症状が軽減かもしれない」という
潜在意識にスイッチが入り、
それが身体の治癒力に働きかけ、症状の改善を
もたらしているのではないかと思うのです。

われわれは意識よりも、
潜在意識の方がずっと影響力が大きいため、
自分の認識とは裏腹に、
体が反応してしまうということは
十分にあると思っています。

このような研究や論文により
プラシーボの有効性に科学的な根拠が与えられると
いくつかの民間会社がプラシーボを製品化し、
販売するようになりました。
日本でもプラセボ製薬が「プラセプラス」という
プラシーボを販売しています。

私も心療内科時代に(もう20年以上前です)、
よくプラシーボを患者さんに処方していました。
ただこのときはプラシーボとは言わず、
自己治癒力を引きだす薬だと言っていました。
薬依存から脱却したいとか、
妊娠の可能性があるので薬をやめたいという人には
たいそう役立ちました。

また、医者と患者のやり取りが症状の軽減に
どれだけ影響を及ぼすかという論文もあります。
ハーバード大学のテッド・カプチャク教授は
過敏性腸症候群の患者262名を、
治療を受けない群と、
礼儀正しいが冷淡で無口な治療者から
プラシーボの鍼治療を受けた群と、
心優しく思いやりのある治療者から
プラシーボの鍼治療と精神的サポートを
受けた群の三群に分け、
鍼治療やベッドサイドでの精神的サポートが
どれだけ症状の改善をもたらすかについての
臨床試験をおこないました。

結果は、治療をしなかった群の28%は
試験に参加しただけで症状の十分な軽減を認め、
プラシーボ鍼治療を受けた患者の44%に
十分な症状の軽減効果を認めました。
さらにプラシーボ鍼治療と精神的サポートの
両者を受けた群では
62%に症状軽減の効果がありました。

つまり、この結果から、
プラシーボ(ここでは鍼治療)だけでなく、
そこに思いやりのある
精神的サポートが加わることで、
さらに効果は大きくなることがわかります。

いかに、医者や治療者の患者に対するかかわりが
大切かということがわかります。
言い換えると、プラシーボが自然治癒力を刺激し、
効果をもたらすように、
患者さんとのやりとりも同様に自然治癒力を刺激し
症状を改善させる力があるといいことです。

人はプラシーボと優しいかかわりだけで、
ずいぶんと症状は改善し、
薬もいらなくなるということです。
プラシーボはよく偽薬と訳されますが、
「偽」という字は「人の為」と書くので、
これはある意味、適訳かもしれませんね。

それにしてもプラシーボを使う治療って、
ちょと、面白くないですか?